45「いきなり試練のようです」③
「さて、困った。歩いても歩いても真っ暗闇。斬り裂いても、魔法をぶっ放しても、全然反応もない。闇を極める話が、闇に囚われちゃった件」
どうしよっかなー、と割とのんびりしているサムだった。
外では友也たちがいるし、自分に何かがあってもなんとかしてくれるだろうと思うくらいの信頼はある。
ダークエルフの族長ジャネットも言ったが、こうして闇に囚われてみて、あまり相性がいいものではないと感じた。
魔法が好きなサムは、闇属性に偏るのは嫌だし、ウルが得意で開発した炎属性魔法も使いたい。
そうなると、やはり自分のスキルに頼るべきだと思われる。
「……ジャネットさんも言っていたけど、俺ってまだスキルを完全に使いこなせていないんだよね」
ほぼ使いこなせるようになったスキルだが、ほんの僅かに扱えていない部分が使えるか使えないかでかなり大きいことは承知している。
ただ、サムは本能的に、スキルをすべて使いこなせないようにしているのだ。
十全となったスキルには大きな代償が伴うことくらい、なんとなくだかわかっている。その代償が怖くて、最後の一歩が踏み込めていなかった。
実際、現状で困る相手はいない。
祖父カリアン・ショーンも強敵だと思うが、斬り殺すことはできる。
同じ魔王の友也だって、死ぬ覚悟で戦えばなんとかなるのかもしれない。
底が見えず戦うのが怖いと思う相手は、魔王ヴィヴィアン・クラクストンズと準魔王ジェーン・エイドだけだ。
もっとも、戦う理由はないのだが。
「――お? おお?」
ひたひた、と裸足で廊下を歩くような音が聞こえた。
ようやく何かが始まるのだと思い、音のする方を見る。
すると、幼い少年が――違う。幼い頃の、サミュエル・シャイトが現れた。
「やあ、サム」
「やあ、サム」
九歳の頃、おそらくサミュエル・シャイトが今のサミュエル・シャイトになったときの姿に、意味があると思われる。
かつて、幼い頃のサミュエルが立ち位置を変われ、と言ったことをなんとなく思い出した。
夢の中の出来事かと思ったし、今まで忘れていた。
「ちがうよ、サム。僕はサミュエル。君がサムだ。とりあえず、そういうことにしておこう」
「いいけどさ、んでなんか用?」
「そっけないな。でも、本題に入りたいのなら、それでいいよ」
サミュエルは笑みを浮かべると、サムに向かって手を差し伸べてきた。
「そろそろ変わって欲しいな」
「まあ、そういう話なんでしょうねぇ」
わかっていた、とサムは苦笑する。
これが試練なのか、それとも本当にサミュエルがそう望んでいるのかまでわからないが、流れ的にこのような展開になることは予想できていた。
「まず、僕に敵意はないよ。その証拠にひとつ教えてあげてる」
「聞こうじゃない」
「サムには闇を極められない」
「そうだろね。ジャネットさんにも言われたよ」
「だけど、僕なら極められる」
「そうなの?」
「そうなんだ」
まるで兄弟で会話をしているかのように、気さくに話ができたことに少しだけ驚く。
「闇はね、心に潜むんだよ。生まれながら持つ属性も大事だけど、闇を育てるのに必要な経験をしたかどうかが重要なんだ」
「へー」
「でもね、サム。君は闇を育てるような経験はしていないだろう?」
「どうなんだろうね」
「僕はたくさんしたよ。母に捨てられ、父親に存在を無視され、弟にいじめられ、酷い目に遭った」
「でも、傍にダフネとデリックがいたじゃないか。父親も本当の父親じゃなかったし、弟だって報いを受けた。気にすることはないだろう」
「君はすっきりしただろうさ。でもね、僕はなにもすっきりしていない。だから、お願いだ、サム。僕を少しでもかわいそうだと思うのなら、変わってくれないかな?」
「やーだー」
「大丈夫、ちゃんと女神だかよくわからないものを殺してあげる」
「いやいや、無理だよ」
訴えてくるサミュエルをサムは一蹴した。
「お前は俺だ――っていいたいけど、今は違うね。あんた誰?」
サムの疑問に、サミュエルは、にぃ、と唇を吊り上げた。
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