44「いきなり試練のようです」②





「何をしているんですか!」


 集会場に戻ってきたダークエルフの族ジャネット・ハーパーに魔王遠藤友也が掴みかかろうとした。


「あ、私に触れるとエナドレされるけど?」

「くっ! いえ、この際、そんなことはどうでもいいんです! サムになにをしたんですか!」

「え? 友也っちが闇を極めさせたいからサムっちを連れてきたっしょ?」

「わかっています! そうではなく、サムをどうしたと聞いているんです!」

「だから、闇を極められるか試練を始めてんだけど?」

「僕のときにはあんなこと」

「あー、あー、なるほどー。めんごめんご、友也っちとサムっちは違うっしょ。人によって試練の方法も変わるんだし? 才能のない友也っちと、才能半々のサムっちだと、ね」


 漆黒の闇に包まれ消えたサムを心配する友也と薫子、ダフネに対し、ジャネットたちダークエルフは特に気にした様子はない。

 危険がないとわかっているのか、それともサムなどどうでもいいのか。先ほどまで友好的だったダークエルフなだけに、敵対はしたくない。

 友也としては、サムに闇を極めてもらうついでに、できることならダークエルフをこちら側に引き込みたかった。


 神聖ディザイア国も脅威だが、女神の復活は望ましくない。

 復活させることができるかどうかが疑問ではなるが、対策をしておくべきだ。

 だが、友好的ではあるダークエルフたちが、今の生活を捨てて俗世に戻ってくれるかどうかわからない。

 なによりも、彼女たちが本当に味方であるかどうかも不明だ。


 エルフのダフネに友好的ではあるが、島という牢獄に閉じ込められて監視されている。外に出た瞬間、今までの鬱憤をぶつける場合も考えなければならない。

 友也としては、少しの被害なら目を瞑っても欲しい人材だ。なんせ、かつて女神と戦ったことがあるのだから。


「あんまし気にしなくてもいいよー。サムっちは、あくまでも試練を受けているだけだし。失敗しても死なないっしょ。わかんないけど」

「説明もなしにいきなり試練を始めないでください」

「えー? でも、闇を極めにきたっしょ? リスクも考えてたんじゃね?」

「それは……そうですが」


 にこにこと笑い、お茶を飲むジャネットから敵意は伝わってこない。

 言葉を信じて、今は待つべきだろうか。


「ジャネット様」

「ん? どったの、ダフネっち」

「かつてお世話になったことに感謝していますが、ぼっちゃまになにかあったら――」


 静かな口調で、しかし、気迫が篭った声でダフネにジャネットが孫を見るような目で慈しむ視線を向けた。


「ダフネっちは最愛の人とちゃんと出会ったんだね」

「はい。とても幸せです」

「安心していいよー。ダフネっちの最愛の子の命を奪おうなんて思っていないっしょ。でも、試練は試練だから、手は抜かいけどねー」

「もちろんです」


 ダフネが安堵の息を吐く。

 それは、薫子、友也も同じだった。


「すみませんが、試練とはどんなことをしているのか教えてもらえませんか? 心配なんです」

「うーん。ま、男の子の友情に免じていいっしょ。サムっちはね――あ」

「あ?」


 言葉の途中で笑顔のまま固まったジャネットに、不安が湧いた。

 ジャネットは、しばらく硬直していると、プルプル震えて顔を真っ赤にして叫んだ。


「あんのクソ女神ぃ! サムっちの試練に干渉しやがった!」

「ちょ、ま、え!?」




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