38「ダークエルフに会いましょう」③





「――近づくな! ここをどこだと思っている! 重要な――ぐべっ」

「邪魔です」


 サムたちは、女王たちとの交渉が決裂したあと、強行的にゲートを通ることを決めた。

 友也の転移魔法を使えば、そもそも許可を得ずとも問題なくダークエルフのもとにいけるのだが、一応、エルフたちが抵抗した形を作るそうだ。

 脅しのようなことを言ってみたものの、「エルフにはエルフの問題がありますからね。ちょっと脅かしただけで、何もするもつもりはありませんよ」といたずらっ子に笑った。


「とりあえずゲートの見張りはぶっ飛ばしましたから、エルフも建前はできたでしょう。では、覚悟はいいですか?」

「ファンタジーの王道ダークエルフさん!」

「ついに会えるね!」

「ふたりとも、さっきまでのやりとり聞いてましたか!?」


 難しいことは友也に丸投げし、ダークエルフに会えることにワクワクしているサムと薫子。

 友也は大きくため息をつくと、


「きっと脳裏に描いているエルフ像がぶっ壊れると思いますが、ま、いいでしょう」


 意味深なことを言ったのだが、サムたちには聞こえていなかった。


「こちらのゲートを潜れば、ダークエルフたちが生活する島へ転移します。私も子供の頃以来なので少し楽しみです。元気にしていると嬉しいのですが」


 ダフネも久しぶりに知り合いのダークエルフたちに会えることを楽しみにしているようだ。


「ま、ここにいても仕方がないので、いきましょう」

「おう!」

「おー!」

「いざ!」

「掛け声くらい統一しましょうよ!」


 一同は、ゲートを潜った。

 視界が白に染められ、思わず目を瞑ってしまう。

 しばらくして、ゆっくり目を開けると、視界いっぱいに長閑な農村が広がっていた。


「あれ? あれあれあれあれ?」


 サムはおもいきり首を傾げた。

 一瞬、場所を間違えたのかと思った。

 しかし、


「ね、ねえねえ、サムくん。あっちの畑に……」

「あ。あー?」


 サムの服を引っ張り、薫子の視線の先には――ツナギ服に身を包み、タオルを首に巻いたダークエルフの女性がいた。

 クワで一生懸命畑を耕しながら、汗を散らしている。

 ときどき、ふー、と額の汗を軍手をはめた手で拭い、作業を続ける姿はとても生き生きしていた。

 他にも、作業着を着て、長靴を履いたダークエルフの女性が、畑で収穫をしていた。カゴいっぱいの大根、にんじん、玉ねぎを収穫して嬉しそうにニコニコしている。


「……えっと、ここどこ? ダークエルフさんって、田畑で仕事をして日に焼けたエルフとかじゃないよね?」

「農家の人……じゃなくて、ダークエルフさんだよね?」

「そうだと信じたい」


 困惑するサムと薫子。

 友也は苦笑し、「まだまだこれからですよ」と言い、ダフネは「懐かしいです」と呟く。

 すると、ダークエルフのひとりがサムたちに気づいた。


「あれー? うわ、やべ。超久しぶりのお客さんじゃね? うわ、マジでやばいんですけどぉ!」

「ちょ、メイクしてねーし! つーか、こんな格好だし!」

「族長が作業着着ろとか言うからだし! ちょ、まってまって、お色直しさせてってば!」


 来客に気づいたダークエルフたちが、騒ぎ始める。

 とはいえ、友好的な雰囲気を感じてサムはホッとするのだった。




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