37「ダークエルフに会いましょう」②
「ダフネぇ……卑猥とか言っちゃ駄目でしょう。別に、ダフネって卑猥っていうか、そういうのじゃないと思うんだよね。友也だって卑猥っていうか、ただのスケベ小僧だし」
「ぼっちゃま……ありがとうございます。しかし、私だけではなくエルフなどみんな卑猥な種族なのです。ただ、それを奔放だ、好奇心旺盛だ、と誤魔化しているだけ。つまらない一族なのですよ」
攻撃的なダフネの言葉だが、不思議とエルフから反論はなかった。
彼女の言いように思うことがあるのかもしれない。
「さて、エルフの方々。僕たちは、あくまでも筋を通しにきただけです。快く送り出してくれるなら感謝しますが、阻むのであれば許可をもらおうとは思いません」
「魔王様!」
「こちらにもこちらの事情がありますので、悠長なことを言っていられないんですよね」
「エルフを敵にするおつもりか!」
魔王遠藤友也は、エルフの女王エステルに不敵な笑みを浮かべた。
「魔王を敵にするつもりですか?」
「ぐ……」
威圧を込める友也に、エステルたちが脂汗を流した。
ダークエルフになにかしらの感情があるのだろうが、サムたちに関係ない。
「種族同士の問題に立ち入るつもりはないんだけど、荒事は避けたいので頼みます。ダフネの故郷で喧嘩したくないんだ」
「……ダークエルフに会ってなにをするおつもりか!」
「だから、闇の力を習得しに」
サムの返答に、目を丸くしてエステルが立ち上がった。
心なしか、彼女が恐怖を抱いているようにも感じた。
「まさか、神聖ディザイア国が動いたというのか!?」
「お察しいただけて何よりです」
「ならば、なおさらエルフはこの件に関わらん!」
「……なんですって!?」
神聖ディザイア国は、人間以外と敵対している。戦わない選択肢を取るのは勝手だが、関わらないというのは女王の選択としてどうなのだろうか、と思う。
「理由の説明を求めます」
「――エルフは、ダークエルフを監視し、外の世界に出さないことを条件に滅ぼされるのを最後にしてもらうという約束を過去に女神としたそうです」
エステルの代わりに答えたのは、ダフネだ。
サムだけではなく、薫子、そして友也も驚きを隠せない。
まさか、女神と密約を交わしていた種族がいたとは思わなかった。
「……ダフネ。それはエルフ以外に話してはならぬと言ったであろう!」
「私は、エルフではなく、魔王サミュエル・シャイト様の忠実なメイドですから」
「まあいい。魔王様方には申し訳ないが、女神や神聖ディザイア国に関わるつもりはない。最後の滅ぼされるとしても、交渉の余地があるかもしれぬし、ないとしても他の種族よりも長く生きられればそれでいいのよう」
「エルフのことを誤解していたようです。とても失望しました」
「エルフはエルフのための選択肢をさせてもらおう。悪く思わんでほしいが、巻き込まないでもらいたい」
友也は立ち上がる。
もうエルフと話すことはないとばかりに、彼女らに視線すら向けない。
「いきましょう、サム、薫子さん、ダフネ。筋を通すべきだと思った僕が馬鹿でした」
「あ、ああ」
「そう、だね」
サムと薫子も立ち上がる。だが、友也のような態度はできなかったので一礼する。
ダフネも立ち上がり、父親にだけ礼をして背中を向けた。
「ところで」
友也はエルフたちに背を向けたまま言った。
「僕たちが勝ったら、滅ぼしてあげるので楽しみにしていてくださいね」
本気かどうかわからないが、友也ならやりかねないと思う。
サムはエルフたちがどのような顔をしているのか、確認しようとは思わなかった。
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