31「エルフはいろいろ凄いです」①
「――ほぇー?」
「――ふぇー?」
視界に広がる光景に、サムと薫子が変な声を出した。
無理もない。
転移で訪れたエルフの里は、まるで映画やゲームの世界に登場しそうな幻想的な場所だった。
樹齢何年か想像できない太い木々が並ぶ森の中、それでいながら太陽に光が燦々とさしている。そんな大木の枝の上に複数の家屋が並んでいる。
枝と枝が絡み合い、通路のようになっており、エルフと思われる耳を尖らせた男女が軽装で歩いているのが見えた。
また、大木の根元をくり抜いて、人々が暮らしているのも見える。
木々の間に、一般的な建造物もあるが、エルフの里はサムと薫子が予想していた通りのものだった。
「気持ちはわかりますよ。エルフ里って、僕たちがイメージした通りですから」
「ぼっちゃまたちが感動するようなものではないと思うのですが……」
友也も初見はサムたちと同じ反応をしたのだろう、苦笑している。ダフネは生まれ育った里などで、とくに思うことはないようだ。
「最高だ。今までファンタジーを見て、聞いて、経験してきたけど、これぞ王道!」
「尖った耳、さらりとした髪、足長っ! 格好もエルフって感じよねぇ」
サムと薫子は手を取り合って、ぴょんぴょん跳ねるほどエルフの里を喜んでいた。
「時間があるなら観光したい!」
「サムくん、闇の力か何かわからないけどサクッと習得しちゃいなさい! そして、残った時間で観光よ!」
「あの、なんでしたら僕が後日に」
「それじゃ風情ないだろ!」
「それじゃあ風情がないでしょう!」
「……すみません」
大陸各地を転々としながら、エルフの里を初めて訪れたサムはもちろんだが、聖女として召喚されながらスカイ王国から滅多に外に出ることがない薫子も興奮気味だ。
「お二人が喜んでくれているのは嬉しいんですが、エルフの里なんてしょうもないですよ。よーく見てください」
「うん?」
「どういうこと?」
なんだか気まずそうな顔をする友也が、指を差す。
サムと薫子が目で追うと、そこには信じられない光景があった。
「いらっしゃい、可愛い女の子も男の子もいますよ! そこの旦那、いかがですか? ウチの子たちはNG無しですから、殺さなければ何しても構いませんよ!」
民族衣装の上に法被を着て、大通りを歩く人たちに声をかけているエルフがいた。
「客引きしてるぅううううううううううううううううう!?」
「えー、嘘―」
まさかの事態に、サムが叫び、薫子が目を見開く。
「追い討ちをかけるようでなんですが、向こうの建物の看板をよーく見てください」
「え? ――あ」
サムが視線を向けた先には、明らかに未成年お断りのお店だとわかる看板が掲げられているのが見えた。
建物全てではないが、通りの奥の方に行けば行くほど「そっち」系のお店がたくさんある。
「エルフってもっとお堅いイメージがあったのに」
「お言葉ですが、ダフネがそばにいてその認識もどうかと」
「失礼ですね」
友也の言葉にダフネが不満そうな顔をした。
「エルフは快楽が好きなだけです。性でも、戦いでも、食でも、気持ちがいいことを優先しているだけです!」
「……はぁ」
「ぼっちゃまに誤解のないように言っておきますが、あちらのお店にも理由があるのです」
「理由とかあるの? お金を稼ぎたいから、とか?」
「いえ、エルフは金に執着しません。あくまでも、エルフとは別の血を取り入れようとしているのです。お金だって人間の娼館と比べて破格ですし、気に入った方がいればそのまま結婚とかも普通にあります」
「つまりですね、サム。エルフは奔放なんです。もちろん、身持ちの固い方もいますが、男女とも基本的に気持ちよくて、お金もらえて、身体の相性がよかったり、性格の相性が良ければそのまま結婚してもいいかなー、他種族と比べて寿命も長いから百年くらいならこの人に捧げてもいいかなー、みたいな感覚でお店もやっているんです。実際、エルフは血が濃すぎて、同種族同士で子供がかなりできにくく、他種族でも難しい場合もあるんです。血を残すことも含めて、大らかなんです」
「へー」
エルフに性のお店があることに驚きはしたが、別に偏見はない。
人間の娼館と比べると、気軽な感じがするが、血を残すためなどが理由ならわかる。
愛した人の子供を産むということは、恵まれているからこそできることだ。
同種族で子供ができないのなら、子孫を残すために贅沢は言えない。人間だって、政略結婚があるのだ、エルフにはエルフなりの子孫の残し方があるのだろう。
「もっとも、気持ちいい事してお金もらえて、いい人まで見つかったらラッキーくらいの感覚のエルフばっかりですけどね!」
友也は自分のした説明が台無しになることを言うので、サムが肩を落とす。
とりあえず、サムと薫子の想像していたエルフはいないようだが、これはこれでファンタジーだと思うことにした。
そんな時だった。
ピンク色の法被を着ていたエルフが、こちらを見て大きく口を開けて固まっているのに気づいた。人間が珍しいのか、それとも友也を知っているのか、と視線に気づいたサムが考えていると、
「――ダフネ様!」
エルフの視線はダフネに向いていたのだとわかった。
男性エルフは小走りでこちらに向かってくると、歓喜の表情を浮かべた。
「ダフネ様、ダフネ様がお戻りになられた! 我らエルフを導くために、国にお戻りになられた!」
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