32「エルフはいろいろ凄いです」②




 ダフネの名が、響くと同時に、周囲のエルフたちが足を止め視線を向ける。


「ダフネ様だ!」

「ダフネ様がご帰還なされた」

「女王の帰還だ!」

「長の交代だ!」

「我々を導いてくださるのですね!」

「さすがダフネ様、しっかり男の子を連れているぞ!」

「しかも人間の少年と少女だ。きっとえぐいことされているんだろうなぁ」

「いいなー、私も人間の国に行っちゃおうかなぁ!」


 エルフたちがぞろぞろ集まり、ダフネを拝む者や、サムたちに好奇の視線を向ける者とそれぞれだ。

 ダフネは大きく嘆息した。


「ご帰還ではありません。私は、ぼっちゃまのメイドとしてお供しただけで、あなたたちを導くつもりなどありません」

「ダフネ様がメイド、だと!? ぼっちゃまというのなら、どちらの少年ですか?」

「馬鹿者! そちらのお嬢さんが女装男子かもしれないだろう!」

「くっ、やるな。その想像がすぐにできなかった自分が恥ずかしい」

「なに、お前は若い。これからさ」

「あの、私、女なんですけど」


 勝手な予想をして盛り上がるエルフに、女装男子と間違われた薫子が悲しそうな声を出す。


(なんていうか、エルフ版スカイ王国みたいなところだなぁ。俺の妄想の中のエルフさん、さようなら)


 現実を知ったサムはちょっと大人になった。


「――静かに!」


 どんどんエルフたちが集まり、他種族の者たちも何事かと足を止めている。

 薫子はどうすればいいのかわからず、ダフネは嘆息し、友也に至ってはトイレを我慢している子供みたいに「人が多すぎてラッキースケベしそうです」と不安なことを言い出す。

 さてどうしようとサムが悩んだ時、鋭い声が響く。


「いくらエルフとはいえ、お客人を目の前にそのはしゃぎようがいかがなものか」


 人垣から、初老ほどの男性エルフが現れた。

 何百年生きても外見が若々しいエルフの中で、老いた風貌のエルフは珍しい。

 想像以上に年齢を重ねているのだと思われる。

 エルフたちも初老のエルフの言葉に、叱られた子供のような顔をして口を閉じていた。

 初老のエルフは、ダフネを真っ直ぐに見つめ、固い表情のまま彼女の名を呼んだ。


「――ダフネ、久しいな」

「……はい、お父様。お久しぶりです」


(――ん? 今、なんて?)


 ダフネがとんでもないことを言ったように聞こえた。

 目を見開くサムに対し、ふたりは会話を続けていく。


「お前が帰ってきたと報告があり驚いたが……同行者にも驚かされた」

「……大切なご主人様と、友人と変態です」

「まあいい。ここでは混乱を招く。女王様にご挨拶しなさい」

「はい」


 初老のエルフは告げることを告げると、身を翻してしまう。

 ふう、と息を吐くダフネにサムが恐る恐る訪ねる。


「あの、今さ、お父様って」

「ご紹介できず申し訳ございません。先程のエルフは、私の父であり、長のひとりです」


 衝撃的な言葉だった。

 まさかダフネの父親と会うとは思ってもいなかったサムは、挨拶できずに呆然としてしまった自分に嘆く。

 母のように姉のように面倒を見てもらってきたダフネの父に挨拶をしないで、第一印象が悪くなったのではないかと考えてしまう。

 同時に、ダフネと初老のエルフのやりとりはどこか事務的で、父と娘とは思えない雰囲気だったことが気になった。





 〜〜あとがき〜〜

 ダフネパパの登場です!





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