30「ダークエルフに会いにいきます」②





 結局、誰もエルフとダークエルフに関わりたくないようだたが、話を聞きつけた薫子は「行きたい!」と興味津々な顔をしてウォーカー伯爵家を訪れていた。

 サムにも気持ちはよくわかる。

 ゲーム、小説、漫画、映画、どれにでも多くエルフは登場する。

 生エルフ、生エルフの里を見たいと思う地球人はきっと多いだろう。


「……あまりエルフに期待しちゃ駄目ですよ?」

「わかってるよー! でも、やっぱりね」


 多忙な神殿ではあるが、エヴァンジェリンが「こっちはいいからたまには楽しんでこい」と旅行感覚で送り出してくれたので薫子は同行することとなった。

 神殿は、竜王一家が手伝ってくれるそうで、人手も力も足りている状態だった。


「じゃあ、俺と、ダフネと、友也と薫子でいきますか!」

「おー!」


 すでに出発準備のできている、サムたちはいつも通り、ウォーカー伯爵家の中庭にいる。

 リーゼたちが見送りにこようとしてくれたが、だんだんと肌寒い季節になってきたので屋敷の中にいてもらうことにした。

 とはいえ、外が見えるところから手を振ってくれている。


 メルシーが前回同様ついてくると駄々をこねたのだが、サムが「生まれてくる弟と妹たちのことを頼むよ」と言うと、なにか思うことがあったのだろう。「メルシーに任せろ!」と受け入れてくれた。

 彼女もアリシアの隣で手を振っている。


「ひとつ言っておきますが、観光はしません。ダフネの里帰りでもありません。エルフ族の長にさくっとご挨拶して、サクッとダークエルフから闇の力を教わって、さくっと帰宅です。いいですね?」

「えー」


 とても真面目な顔をする友也に対し、不満そうな薫子。


「薫子さん、エルフは基本的に量産型ダフネだと思ってください。美少年でも魔王として恐れられている僕ならまだしも、まだ駆け出しのサムはなにをされるか」

「……なにかされちゃうんだ」

「ぼっちゃまは私が守ります!」

「意気込むダフネが一番危険なんですけどね」


 そんなやり取りをしている中、サムがスカイ王国の空を眺めていた。

 リーゼたちに振っていた手を止めているサムに、友也たちが何かあったのか心配になる。


「どうかしたの、サムくん?」

「……あ、うん。なんというか、嫌な予感がして」

「嫌な予感って?」

「あー、なんていうんだろう。俺が王都を離れたら、なにか良くないことが起きるような気がするっていうか、なんていうか」

「それって、友也くんたちがサムくんたちのいない間にはっちゃけちゃったせいじゃない?」

「薫子さん! 僕ではありません、ギュンターくんとスカイ国民がはっちゃんけたんです!」


 ひどい誤解を受けていた友也が抗議の声を上げる。

 いつものならここでサムを含めてみんなで笑うのだが、彼の表情は曇ったままだ。


「……どうしますか? 日をずらしましょうか?」


 気遣ってくれる友也に、サムは首を横に振るった。


「いや、気のせいだと思うからいいよ」

「魔王の嫌な予感はあまり見過ごしたくないんですが、ダークエルフと会うのも急ぎたいですし……リーゼ殿たちの護衛はダニエルズ兄妹、ボーウッドくんに頼んでありますし、アリシア殿のそばにはロボもいます。よほどのことがない限り、対処できるでしょう」

「そう、だよね」

「ダークエルフに関しても、予定では三日ほどを考えていますので、その間に何事もないことを信じて今はいきましょう」

「うん。わかった。ごめん、ちょっと変な感じがしたからさ」

「魔王は感知能力が鋭くなります。ですが、その前に不安定になります。僕もそうでしたから、もしかしたらサムもそれらが理由で変な感覚になってしまったのかもしれませんね」


 サムは友也の言葉を信じ、そういうことにした。

 何かあればカルが飛んできてくれるだろうし、その時は友也の転移で一瞬で戻ってこれる。

 サムの様子がおかしいことに気づいていたリーゼたちになんでもないと手を振り笑顔を浮かべる。窓越しに、ほっとした顔を妻たちが確認できた。


「よし、ごめん! じゃあ、エルフさんのおうちに行こうか!」

「う、うん! 行こう行こう!」


 サムたちは大きく手を振って、リーゼたちに挨拶をすると、友也の転移に包まれた。






 ――サムは、この時の直感に従わなかったことを酷く後悔することになる。






 〜〜あとがき〜〜

 ……シリアス……だったらいいなぁ。


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