22「マクナマラさん荒ぶります」②





「……な、なん、だと?」

「いや、だからさ。神聖ディザイア国の聖騎士に力を使ってやるのも嫌なんだけど、あんまりにも哀れだから」

「ぶ、無礼な! 私が哀れだと! ――よろしくお願いします!」


 怒り出すかと思われたマクナマラであったが、勢いよく立ち上がると、それはそれは美しい動作で直角に頭を下げた。

 サムがここにいれば、前世のサラリーマン時代を思い出していただろう。


「魔王……いや、女神エヴァンジェリン様!」

「うわぁ、こいつ私のこと女神とか言いやがった。神聖ディザイア国の聖騎士としてどうなんだ?」

「クビになったんだ、関係ない! 私はこれからあなたへ忠誠を近い、女神エヴァンジェリン様の聖騎士として生涯を捧げよう!」

「いらねー!」


 クビなって酒が入っているとはいえ、この見事な転身っぷりに、一同は苦笑いしか出てこない。

 口に出すようなことこそしなかったが、誰もがカリアンによってクビになった理由を察した。

 良くも悪くも、マクナマラは神聖ディザイア国の人間らしくないのだ。

 もしくは、スカイ王国にきたせいで変なスイッチが入ってしまったのか。

 とにかく、マクナマラ・ショーンの第二の人生が始まった。


「待ちたまえ、おば――おっと、大変失礼を。サムのお母様のお姉様!」


 ギュン子が、マクナマラを呼ぼうとしたが、「おばさん」と言いかけて、濃密な殺気を飛ばされたので訂正をする。


「お前は確か、サミュエルの妻のひとりだったな」

「覚えていてくださってなによりです! 僕はギュン子・イグナーツ! サムに最も愛される者です!」

「お待ちください、マクナマラ様。この男は、一見美女に見えるでしょうが、女体化した男性であって、いえ、そこは問題ないのですが、妻ではありません。サムを愛するふりをして、幼妻に素直に慣れないだけの人間です」


 これ以上サムの親族に変な誤解をされてたまるものか、とリーゼがすかさず訂正する。

 マクナマラは、驚いた顔をしてギュンターのてっぺんから爪先まで見たあと、「うぉ」と変な声を出した。


「こ、これが元男だと? 私よりも美しいではないか!」

「ふっ、さすがサムのお母様のお姉様だ。実に見る目がある。あなたも歳を重ねたからこその美しさがあるが、僕には勝てまい。僕は女体化という神秘と出会う前に、サムの子を孕むため日々努力をしていたのさ。お肌のケアはもちろん、ムダ毛の処理、太くなりすぎず、細くなりすぎない肉体の調整、食事と運動のアンチエイジング! 自慢するようで嫌だが、永遠に美しいだろう! 僕は劣化しないのさ!」

「……ふむ。サミュエルもそこまで思われるとは幸せ者だな。実に結構だ。女体化だろうが元男だろうが関係ない。私の可愛い甥を頼むぞ!」

「――っ、はい! おばさま!」

「馬鹿者、お姉様だ!」


 ギュン子の努力を認め、サムを託してしまったマクナマラ。感極まった変態が、つい口を滑らせたせいで引っ叩かれたが、これはギュン子が悪い。

 もうすでにノリだけならスカイ王国っ子に引けを取らないマクナマラは、エヴァンジェリンに膝をつき、首を垂れた。


「女神エヴァンジェリン様。どうか、ギュン子・イグナーツよりも若く美しい美少女に生まれ変わらせてくれ!」

「無茶振りすんな! 誰が生まれ変わらせるなんて言ったよ!?」


 エヴァンジェリンの怒声が王宮に響いた。





 〜〜〜〜〜〜

 メリークリスマス!

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