21「マクナマラさん荒ぶります」①




「――笑ってくれ。もうすぐ四十になるというのに、恋人もおらず、趣味もない。ついでに職まで失ってしまった。国を追い出されたようなものだが、老後のためにコツコツ貯めていたお金は没収とかされてしまうのだろうか?」


 笑ってくれと言われて、笑える者はいない。

 空気を読まないクライド、ギュン子、ダニエルズ兄弟、カルでさえ、「笑えない」と顔を引き攣らせている。

 手酌でぐびぐびとワインを煽るマクナマラに、誰もが声を掛け辛かった。


 全員が「お前が慰めろよ」と目で会話しているが、誰も行きたがらない。

 無理もない。近づけば、捕まってくだを巻かれること間違いないのだから。


「ふふ。幼い頃から魔族は倒すべき存在と教わり、妹と生き別れてしまったこともあって、聖騎士を目指して必死に努力した。才能がありすぎたので、余裕で聖騎士になり、聖騎士最強の座も手に入れたが……それもなくなってしまった」


 ぐいっ、とワインを水みたいに煽る。


「……気のせいか? ちょっと自慢が入ってないか?」


 小さな声で疑問の声を上げたのは、ゾーイだった。

 一同は同意するように、うんうん、と頷く。


「若い頃はな、いーや、今だって若いが! 聖女の娘ということもあり、私の美貌に男が邪な感情を抱いては近づいてきたものだ! もちろん、股間を蹴り上げて悶絶させてやったがな!」

「……なんてひどい。魔王よりも魔王みたいなことしますね」


 友也が声を振るわせる。

 男性一同は股間を押さえてしまった。


「メラニーはいいなー! 素敵な旦那様と可愛い息子と娘がいるんだなー! お前が苦労したことは知っているが、私も苦労したんだぞー。どこかの変態のせいで男はみんな変態だと思っていたし……男よりも女からのほうが人気があるんだ……」

「お、お姉ちゃん、飲み過ぎよ。そろそろお暇しましょう」

「嫌だ! 私は王宮の高級ワインを全部飲み干すんだ!」


 メラニーが恐る恐る声をかけるも、マクナマラは空になったボトルを覗き込んで、おかわりを要求し始める。


「ここは王宮であって飲み屋ではないのだが……いや、無粋なことは言うまい。マクナマラ殿の心はビンビンでなくなってしまったのだ。ワインで元気になるのならそれもまたビンビンである。ということで、ジョナサンの秘蔵のワインを王宮に持ってくるのだ」

「――え!? なぜ私のコレクションを!?」

「私はあまりワインにこだわりがないのである。ならば、良し悪しを知り、きちんと選んだそなたのコレクションのほうがいいだろう。そなたの領地ではワインが栄えているのだし、構わないだろう?」

「構います! いくら陛下であろうとも、私のワインコレクションをあのような味もわからなくなっている酔っ払いに安酒のように飲まれるのであれば、私がすべて飲み干しましょう!」

「……す、すまぬ。まさかそれほど大事とは」


 ワインを徴収しようとするクライドに、抵抗するジョナサン。娘たちは、苦笑している。

 そんな中、エヴァンジェリンがマクナマラに近づいた。


「あー、なんていうか、さ」

「……なんだ、何百年も生きているくせに若々しく美しい邪竜め」

「褒めんなよ! じゃなくて、さ。……若返らせてやろうか?」


 エヴァンジェリンの提案に、マクナマラは硬直した。




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