23「友也が振られたそうです」①





「そ、そんな女神様ならば私を絶世の美少女に生まれ変わらせて、若い男を取っ替え引っ替えする第二の人生を授けてくださってもいいのに」

「……お前、女神舐めんな。お前の信仰していた女神だって、そんな愉快な野望を叶えてはくれねぇよ」


 エヴァンジェリンが嘆息する。

 仮に若返るだけではなく、別人のように変貌を遂げたとしても、中身がこれでは同じように四十路を迎えそうな気がした。


「……仕方がない。ならば女神様の顔を立てて若返るだけでよしとしよう」

「なんでお前が折れる結果なってんだよ。まあ、いいや。いくつか条件を固定すればこの場でもできるから、さくっとやっちまうぞ」

「待ってほしい。条件とは?」

「あー、歳をとれないとか」

「なんという祝福!」

「祝福じゃねーし」


 エヴァンジェリンの手を、両手で包み感涙し始める。

 若返るだけでも奇跡なのに、歳をとらないとなれば喜びは二倍だろう。

 ごくり、と見守っていたリーゼたちが喉を鳴らした。


「言っておくけどな、不老不死じゃねえから。外見は変わらないだけで、人間らしく寿命で死ぬからな!」

「棺の中に若い姿で入ることができるのなら、僥倖だ。さあ、私に祝福を! 今すぐ! ここで!」

「んで、どのくらい若返ればいいんだ?」


 マクナマラは悩む。

 これからずっと同じ姿でいると考えると、おいそれと決められない。


「……理想をいうのなら、十六歳ほどだが、いや、しかし、十歳というのも捨て難い。幼い頃の私はかなり可愛かった自信があるからな。だが、その場合妊娠は可能か? 二十歳……いや、できることなら十代がいい。十八くらいなら、若さと大人っぽさが両立していい具合なのではないか? 女神様、お試しでいくつか試すことは!?」

「できねえよ!」

「――ちっ」

「今、こいつ舌打ちしたよな!? したよな!?」


 女神と言いながら、だんだん図々しくなってきたマクナマラに、「気を遣ってやって損した」とエヴァンジェリンがぼやき出す。

 そんな時だった。


「マクナマラ・ショーン……若返る必要はありません」

「なんだと?」


 何歳に若返ろうかとウキウキしているマクナマラに水を差す声が発せられた。

 声の主――魔王遠藤友子に視線が集まる。


「おい、クソ変態! お前のせいでいろいろ拗らせているんだから、黙ってろよ!」

「エヴァンジェリン、君の優しさには感謝しています。ですが、君の言う通り僕が悪かったんです」

「――お?」


 エヴァンジェリンだけではない。この場にいる、マクナマラ以外の女性たちが察した。


 ――友子が、いいや、友也が覚悟を決めたのだ、と。


 これから始まるラブストーリーの予感に、女性陣がワクワクを隠せない。

 ギュン子、クライドたちも、友也が男を見せようとする瞬間を見守ろうと決めた。


「マクナマラ・ショーン」

「なんだ?」

「あなたに言われたことをずっと考えていました。そして、結論を出しました」

「なに?」

「遠藤友也はあなたへの責任を取ります。どうぞ、まずはお付き合いから始めてください」


 どのような経緯で責任を取る結論に至ったのか不明だが、マクナマラに責任を取ること決めた友也は、今まで最低限にしていた他者との関係を一歩踏み出すことに至ったのだ。

 誰もが見守る中、マクナマラが返事をする。


「――断る!」

「え?」

「私は女神エヴァンジェリン様によって美少女に生まれ変わり、イケメンたちを捕まえて逆ハーレムを作るのだ!」


 まさかのお断りに、友也だけではなく、エヴァンジェリンも、クライドも、ギュンターも、リーゼたちも唖然としてしまった。

 メラニーだけが「お姉ちゃん、そういうところがいけないんだと思う」と姉に涙した。





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