12「祖父と義父です」
カリアン・ショーンは悩んでいた。
良くも悪くも猪突猛進な娘マクナマラがスカイ王国に出立してしまったのは良しとして、生き別れになっていたもうひとりの娘メラニーと会えたのならそれでいい。カリアンも二十年以上会っていない娘と会いたくないはずがない。
ただ、問題は、スカイ王国でマクナマラがやらかさないか、だ。
「見る限り、問題は起こしていない様ですが……いえ、それ以上の問題が……なぜこうもサミュエルくんの誕生日を国を上げて祝うのか? いくら王弟の息子だったからとはいえ、これは流石にやりすぎではないでしょうか? なによりも、男性国民が、サミュエルくんまでが女体化する必要性がわかりません」
カリアンの視線の先には、アイドルとなって歌って踊る孫がいる。
熱狂している観客の中に、ジョッキ片手に声援を送っている娘がいることに、軽い頭痛を覚えた。
「まったく、あの子はなにをしているのでしょうね」
「まあよいではないか」
カリアンの背後から声をかけたのは、クライド・アイル・スカイだ。
音もなく忍び寄ったクライドだったが、カリアンは驚きもしない。
「意外と見つからないでいられたものです」
「はははははは! サムのお誕生日会に夢中になっていたのだよ。そなたは、神聖ディザイア国の枢機卿カリアン・ショーン殿とお見受けする」
「お初にお目にかかります。カリアン・ショーンです。クライド・アイル・スカイ国王陛下とは過去に何度か手紙のやり取りをしましたね」
柔和な笑みを浮かべるカリアンに、うむ、とクライドが頷いた。
「かつて魔王レプシーをどうにかしたいと悩んでいたときに、ご助言をいただいたこと感謝している」
「まさかサミュエルくんが倒してしまうとは思いませんでしたがね」
「うむ。私も思わなかった!」
クライドがカラカラと笑う姿を見て、カリアンは「変われば変わるものだ」と興味を覚える。
カリアンはクライドと直接的な面識こそないが、彼がレプシーに悩み、問題をひとりで抱え苦悩していることを知っていた。力になりたいと思ったが、自らが赴きレプシーを倒すことはできなかった。
魔王を倒すことは不可能ではなかったが、それをしようとするとスカイ王国が間違いなく巻き込まれる。
血気盛んな聖騎士や、他の枢機卿なら被害がどれだけ出ようとも魔王を倒すことを優先したかもしれないが、カリアンは違った。
神聖ディザイア国を頼ってきた人間を救うことを第一に考えたのだ。
結果、結界の強化方法などを教えようといくつか術式を考えていたのだが、魔王レプシーは人の手によって倒された。
しかも、まだ十四歳の子供に、だ。
「カリアン殿」
「はい」
「すでにマクナマラ・ショーン聖騎士どのから、話は聞いている。メラニー・ティーリング子爵夫人のこと、そしてサムとの関係も、である」
「さぞ驚いたでしょう」
「う、む。このようなことを言ってしまうとなんだが、サムが王都に来てからトラブル続きであるのだ。今更、血縁が判明したところで驚けぬよ」
「ははは。それはそうですね」
クライドにとって、サムが現れてからの半年は驚きの連続だった。
宮廷魔法使い最強を一瞬で両断し、竜と戦い、魔王を倒し、魔王たちと親しくなり、自らも魔王となった。愛娘のお腹にはサムの子供が宿っている。もう一生分、感情を動かしたかもしれないと思うこともある。
「カリアン殿がサムの祖父であるのなら、スカイ王国は歓迎しましょう」
「――これはこれは。よろしいのですか?」
「神聖ディザイア国の魔族へと対応は存じている。だが、ここはスカイ王国である。スカイ王国のルールで過ごしていただきたい。もっとも、今のあなたが十全の力を使えるとは思わぬが」
「それは、どういう?」
「王都は現在強力な結界に覆われている。竜王殿、魔王殿、私、ギュンターと結界術を幾重にも重ねて、様々な力を封じているのだよ」
「なるほど」
まさかカリアンも結界の正体が、サムを逃さないことを目的にしているとは思いもしないだろう。
「神聖ディザイア国枢機卿カリアン・ショーン殿。あなたも御息女のように、プライベートで遊びに来たということでどうだろうか?」
「……いいでしょう」
「話のわかる方でよかった。私としての、サムの祖父を傷つけたくはないのだ」
「私も、サミュエルくんの義父を、娘が生活する国をどうこうしたいわけではありません」
「ならばよし。では、王宮にご招待しよう。おっと、その前にお尋ねせねばならぬことがあった」
カリアンを案内しようとしていたクライドは足を止め、無駄にキメた顔をした。
「そなたはビンビン――あ、いや、無粋な質問であったな。性術というみなぎる力を使うカリアン殿なら、聞くまでもないだろう。失礼した。ささ、王宮はこちらである」
「……へ、陛下? あなたは聖術をなにか勘違いしていないでしょうか? いえ、そのようにわかっている、みたいな顔をされても困ります。聖術はあなたが想像しているようなものではなく、女神様から授かった――」
大きな誤解を受けていると察したカリアンが聖術に関して説明をしようとするも、クライドは優しい笑みを浮かべて「わかっている、わかっているのである」と言って聞こうとしなかった。
ギュンター・イグナーツによって聖術が性術に置き換わっているクライドの誤解は、とてもではないが解けそうもなかった。
〜〜ですわ!〜〜
新作もよろしくお願い致しますわ!
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