間話「モルド小国という国がありました」
大陸東側の中央部から少し北に進んだ場所に、モルド小国という国がある。
人口こそ少ないが、魔法使いの育成に力を入れ、他国からの留学生も積極的に受け入れている。
一見すると、大きな問題を抱えていない過ごしやすい国に思われるが、王族貴族と学園サイドとの派閥争いが水面化で行われていた。
学園側は、優れた生徒を集め、他国と交流し、力をつけている。これに一歩遅れている王族派も最近になって積極的に外交を始めていた。
そんな彼らが、外交の相手として値踏みしているのがスカイ王国だった。
「陛下。スカイ王国に関して新たな情報が入ってまいりました」
「聞こう」
国王陛下の私室へ、宰相が報告にやってきた。
「ここ最近、スカイ王国に関して様々な噂が飛び交っていましたが、なんとか情報を仕入れました」
「うむ。よくやった。それで、どうだった?」
「――あの国はおかしいです」
「やはりそうであったか。もう十年近く前にあちらの国の国王と宮廷魔法使いを招いたことがあったが、すごく怖かったのを覚えている」
「わたくしも覚えています。あれは、恐ろしかった。今でも、灼熱の悪魔と、その従者の記憶は忘れられません。おそらく、学園派の連中は我々よりももっと恐れ、今も怯えているでしょう」
スカイ王国と積極的に外交をしようとしている理由は、学園派がスカイ王国を蛇蝎の如く嫌っているからだ。
そのきっかけは、まだウルが宮廷魔法使いだった頃、クライドの護衛を兼ねてギュンターとキャサリンと一緒にこの国に来たことがある。
まだ若かったウルは、学園に優れた生徒や教師がいると知ると「ぶっ飛ばしてきていい?」と狂戦士なことを言い出し、モルド小国国王は二つ返事で了承してしまった。
スカイ王国の若き宮廷魔法使いの力を見てみたかったのもあるが、学園派が他国の少女に敗北し、勢力を削ることができれば、という考えもあった。
モルド小国国王の試みは大当たりだった。
しかし、代償も大きくあった。
ウルと戦ったモルド小国自慢の魔法使いはことごとく敗北し、心を折られ、再起不能となった。派閥の頂点に立つ学園長ですら手も足も出なかった。そして、ついでとばかりにギュンターが「ウルリーケ万歳!」と刷り込んでいったので、しばらくウルを崇拝する魔法使いたちに溢れかえっていた。
だが、正気に戻った魔法使いたちが、ウルという宿敵を見つけ、一致団結をして高みを目指したので、結果的に王族派がその後も派閥争いで押される形となり現在に至る。
「もともと恐ろしい国だったが、今もやはり恐ろしいのか」
「恐ろしいには恐ろしいのですが……昔と今ではベクトルが違った恐ろしさがありまして」
「どういうことだ?」
「わたくしも直接目にしていないので怪しんでいるのですが、あの賢王クライド・アイル・スカイが壊れた、と」
「壊れた? 身体でも壊したというのか?」
「いえ、あの言いにくいのですが、頭のネジが数本外れてしまった様で、変態になってしまったそうです」
「――は?」
「もっと言いますと、ウルリーケ・シャイト・ウォーカーの弟子が半年の間に暴れまくり、女を取っ替え引っ替えし、男性を女体化させ、魔王や竜まで侍らせているとか」
「うっそだー!」
「ですよね! そう思いますよね! でも、これを読んでください」
宰相は国王に報告書を手渡す。
書類をめくり、国王は顔を真っ青にした。
「この国やばくね?」
「ええ、やばいです。魔王、準魔王、竜王、竜、そして数多の変態が跋扈しています!」
「しかも、ロボ・ノースランドがいるとか怖い」
「ええ、我々の前に国を築いていた者たちは、あの魔王に滅び去れました」
「早急に友好の関係を築こうではないか!」
「へ、陛下その前に」
「なんだ?」
「相手は変態ですよ?」
「魔王も変態も同じ様なものだ! この小国が内部で分裂している間に、あわよくばと狙う国もあるのだ! 相手は変態だろうと、我らは友好関係を築くのだ! たとえ、どのような代償があったとしてもだ!」
「ははぁ!」
この日、モルド小国はスカイ王国に同盟を申し入れることとなった。
国は他国から守られ、潤い、派閥争いもなくなる。
しかし、十数年後「……同盟辞めたい」とスカイ王国についていけずに泣く国の重鎮がいたとかいないとか。
そんなモルド小国に、他の周辺諸国が「あーあ、あの国がやべーのは前からなのに」と同情と呆れを向けるのだった。
〜〜あとがき〜〜
体調不良が続くため、ちょっと間話を入れさせていただきますわ。
ビンビンとか変態要素は元気がないと書けないのですわ。
スカイ王国は周りからもやべー国扱いですわ。昔から交友がある国では、「あのクライドが国王だぜ?」「弟のロイグもあれだったが、クライドはまじでやべーよ」みたいな感じですの。
新作始めておりますわ。
よろしければ、ぜひご覧になってくださいまし。
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