6「伯母さんがいたそうです」②





「ええー。だって、伯母さんじゃ――」


 母の姉は伯母である、と改めて言おうとしたサムの頬に再びマクナマラの拳が飛んできた。


「ええい! どいつもこいつもおばさん扱いしよって! やはり魔族は滅ぶべきだ! 私よりも年上のくせに、若々しい外見を持つ魔族は卑怯だ! 滅べ、滅んでしまえ!」

「なにこの人、怖い!」


 マクナマラが伯母であることから、カリアン・ショーンが祖父になるようだが、それよりも若者に怨嗟の声をあげるマクナマラが怖くてそれどころではない。


「というか、この人、本当に何しにきたんだよ。魔族を滅ぼす理由が嫉妬とか、そんな敵は嫌だなぁ」

「ごめんなさいね、サム」

「あ、お母さんもいらしていたんですね」


 母メラニーが、困ったような顔をしてサムに声をかけた。

 着飾ったドレスに身を包んでいる母は年齢よりも若く見える。じぃっと母の顔を見てからマクナマラの顔を見ると、どこか見覚えがあると感じていた正体がわかった。

 姉妹だけあり、母と伯母はよく似ていたのだ。


「息子の誕生日を祝う催しものだもの、もちろんよ。サミュエル、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」

「あなたが生まれてくれたとき、本当に嬉しかったわ。母親としてなにもしてあげられなかったことを申し訳なく思っているけど、こうしてあなたが元気な姿で成人を迎えてくれたことに感謝しかないわ」

「はははは、そんな大袈裟な」

「そんなことないのよ。恥ずかしいことだけど、私は母であることから逃げてしまったわ。そんなあなたのことを愛し、育ててくれたダフネ、デリックさんにももちろんだけど、あなたを導いてくださったウルリーケ様、そしてあなたを愛してくれるリーゼロッテ様たちにも何度感謝をすればいいのか」


 瞳を潤ませる母に、サムはハンカチを渡した。

 しんみりしたのは苦手だ。

 メラニーが苦労したことはサムも知っている。

 彼女の言うように、母親からの愛情を受けることはできなかったかもしれないが、母同然のダフネがいた。父親同然のデリックがいた。領民たちはみんないい人だった。

 領地から出て出会ったウルリーケはもちろん、リーゼたちウォーカー伯爵家のみんなをはじめ、王都でたくさんの良き出会いがあった。

 今では種族を通り越して魔王ともこうして馬鹿騒ぎをしているのだ。


「お母さん、俺は幸せです。産んでくれて、どうもありがとうございました」

「……そう言ってくれるだけで、私も幸せよ。サミュエル、成人おめでとう。どうか、これからも幸せに」

「はい」


 と、いい話で終わりたいのだが、サムは母に聞かなければならないことが山のようにある。


「この流れでお聞きするのは大変恐縮なのですが……このおばさんは、本当にお母さんのお姉さんなんですか?」

「……ええ、マクナマラお姉ちゃんは間違いなく私のお姉ちゃんよ」

「しかし、知りませんでした。お母さんにお姉さんがいたなんて」

「私が幼い頃に生き別れてしまって……生きていてくれて嬉しいわ。でも、サムと戦うなんて言っているのだけど、なんとかできればいいと思っているの」

「その辺りはお母さんが気にしなくてもいいですよ。問題は、なんでこの人、こんなに暴力的なんですかねぇ!」


 母は困った顔をした後、ちらりとマクナマラを見てから説明した。


「……さっきね、魔王遠藤友也様にえっちなことをされたので責任を取れとおっしゃったのだけど」

「だけど?」

「友也様に、おばさんはちょっと、と断れてしまってやけ酒中なの」


 神聖ディザイア国の聖騎士相手にラッキースケベをしていた友子も友子だが、敵対する魔族に責任を求めるマクナマラもマクナマラだ。

 仮に友子が責任を取ると言ったらどうするつもりだったのだろうか、と疑問だ。

 サムが頭痛を覚えている間にも、マクナマラがチップを友子に渡してはセクハラ行為をしている。


「ほらほら、追加のチップだ。どれどれ、おうおう、天下の魔王様が下着まで女物とは……とんでもない変態だな!」

「ここはそういうお店じゃないですぅ。僕はアイドルだからぁ、仕方がないんですぅ」

「さっきからこのおばさん、言動がおっさんなんだよ! この人、本当に神聖ディザイア国の方!? どう見ても、スカイ王国っ子なんですけど! あと、友子はさっきから気持ち悪いんだよ!」





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