5「伯母さんがいたそうです」①





「ふはははははははははは! なんとも情けない姿だな、魔王め! 貴様に陵辱された女性たちに、その変わり果てた姿を見せて回りたいぞ!」


 サムが絶叫していると、背後から女性の高笑いが響いて来た。

 なんとなく面倒臭そうな予感がするも、聞き覚えない声だったので重たい首を無理やり動かし振り返る。


「ほおら、媚びろ変態魔王め! チップをくれてやろう! おっと、手で取るなよ、口で受け取るといい!」

「あ、ありがとうございますぅ」


 四十手前のどこか雰囲気に覚えがある女性が、友子に向けて紙幣を差し出し、口で拾わせている。

 場末のスナックでもしないようなことを、高笑いしながら行う女性にサムはちょっと引いた。


「あの、どちら様ですか? あと、友也も頬染めて口で札を受けとんな!」

「うん? おおっ! お前がサミュエル・シャイトだな! 変態魔王を甚振ることしか考えてなかったので、見えていなかったぞ。失礼した」

「いえ、それは、いいんですけど」


 女性は、ごほん、と咳払いをすると、髪をかき上げて名乗った。


「私の名前はマクナマラ・ショーン」

「――え? ショーンって、どこかで聞き覚えが」


 サムと似た黒髪、すらりとした体躯――顔の雰囲気は先日、どこかで見た気がした。


「そうだ、ショーンといえば」


 最近、会ったショーンはひとりしかいない。

 サムの導き出した答えを肯定するように、マクナマラは頷いた。


「うむ。私は、神聖ディザイア国枢機卿であるカリアン・ショーンの娘だ!」

「ちょ、え。すみません、あのちょっと質問いいですか?」

「なんでも聞け」

「一応っていうか、神聖ディザイア国は俺たちと敵対していますよね? カリアン・ショーンは俺たち明確な敵対宣言をしていたと思うんですけど」

「うむ。私たち神聖ディザイア国は魔族の存在をよしとしない。その頂点である魔王など論外だ」


 少しだけ安心した。

 マクナマラの言動はさておき、神聖ディザイア国が魔族の敵であることをちゃんと覚えているようだ。


「えっと、じゃあ、なんで友子にチップを渡して楽しんでいるんでしょうか? 敵でしょ?」

「今はプライベート中だ」

「そんなのアリ!?」

「ふう。最近の若いものは、これだから困る。私がいくら神聖ディザイア国で十人しかいない聖騎士であったとしても、四六時中働いているわけではない。プライベートを充実しないような人間は、仕事もちゃんとできない」

「……元社畜でプライベートなんて寝ているか酒飲んでいるしかしていなかった俺には耳が痛いなぁ」


 いくらプライベート中だからといって、敵対する魔族や魔王がいるスカイ王国に来たマクナマラの行動理由がわからない。

 スカイ王国にも観光地はあるが、王都から離れている。


「とりあえず、あなたが神聖ディザイア国のカリアン・ショーン枢機卿の娘で、聖騎士だということはわかりました」

「うむ」

「で、なんでスカイ王国に来たの?」

「妹に会いに来たのだ」

「妹? この国に? 王都にいるの?」


 まさかマクナマラの妹が王都にいるとは思わなかった。

 一体誰だ、と首を傾げる。


「よく聞け、サミュエル・シャイト。お前にも関係がある話だ」

「俺に? なんで?」

「私の妹は、メラニーだ」

「はあ、メラニーさんですか」

「…………お前の母親だ!」

「へぇ。お母さんのお姉さんなんだ。そっかそっか。ふうん。って、えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 王都の男性たちが女体化しているくらい驚きの情報だった。

 ただし、真偽は不明だ。あくまでもマクナマラが言っているだけの可能性がある。


「サム……とても残念ですが、すでにメラニー殿とお会いして、あちらもマクナマラさんを姉だと認めています」

「えっと、つまり、この人は――俺の、伯母さん?」


 なぜ自分の血筋は、王弟だったり、敵国の人間だったりするのだろうか。

 サムが驚きながらも、マクナマラに真っ直ぐ視線を向けると、伯母は憤怒の形相をしていた。


「無礼者!」


 そして、突然、頬を殴られた。


「痛いっ!」

「こっちの方が痛いわ! ええい、そんなことはどうでもいい! メラニーの息子だと思って少しは期待していたが、とんだ無礼者のようだな! 女性に向かっておばさんとは何事だ! 私はあくまでもお前の母の姉であって、おばさんではない! お姉様と呼べ!」





 〜〜あとがき〜〜

 伯母さんは伯母さんですわ!


 新作もよろしければお読みください!

 何卒よろしくお願い致します!

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