4「変わり果てた魔王です」





 ラッキースケベという得意な性質を持つことで、前世日本でも、現在の異世界でも苦労したゆえに常識人であったはずの魔王遠藤友也の代わりように、サムたちは驚き一曲歌い終わるのをずっと眺めてしまった。


 ――意外と歌が上手いのね。

 ――パンチラしまくってるじゃん。

 ――ウインクすんな!

 ――投げキッスとか、ぶっ飛ばすぞ!


 と、いろいろな感情を抱えること四分間。

 地獄のような媚びた曲が終わり、やり切った顔をして汗を拭いながらやはり媚びたように手を振り続けるアイドル友子ちゃん。

 よく見れば、背後にはメイド服姿でギターをかき鳴らす友子の従者の白い方ケイリィと、同じくメイド服でタンバリン片手に踊り狂う黒い方ウェンディもいる。

 他に楽器を構えるのは、それぞれ見目麗しい女性たちだが、きっと女体化済みの男性だろう。


(日本でさ、女体化……TSものの本を読んだことがあるけどさ、エロ本含めて、王都に住まう男性全員が女体化という展開はなかったなぁ)


 嗜む程度であったが、日本に暮らしていた青年であったサムなので、女体化にまったく耐性がないわけではない。だが、まさか王都の男性住民が女体化しているとは思わなかった。なによりも、嫌がっている者がいないのが怖い。


(……ま、まあイベントとして楽しむってことで割り切っているんだろうけど。問題はあなたですよ、友也さん。いえ、友子さん?)


「あっりがとー! また夜の部で会おうねー!」

「きゃぁあああああああああああああああああああああ!」


 黄色い歓声が響き渡る中、満面の笑みで手を振り続けるアイドル友子。

 しばらくして、友子の視線がサムのほうに向き目があった。

 なにも言わず、動かず、真っ直ぐと変貌を遂げてしまった友人を見つめるサムに対し、友子は顔を赤くしてから青くして舞台に引っ込んでしまった。


「逃げたな」

「逃げましたわね」

「逃げたぞ」

「逃げたっすね」

「逃げましたね」


 魔王の中でも最も恐れられていた魔王の逃亡を始めて見た移動だった。


「さて、変態が変態になちゃったのはいいとして。これ、とりあえずなんか食べようかな」

「サミュエル様? 止めしなくてよろしいのですか?」

「うーん。みんな楽しんでいるからいいんじゃないかな? びっくりしたけど、みんな笑ってるじゃん。それをやめろと言うほど無粋じゃないよ」


 成人したことで大人の余裕を持ち始めた。

 しかし、内心では、


「ご飯食べたら家で寝よーっと。三日位寝ていれば、終わってるでしょ?」


 関わらずに、部屋に引きこもる気満々だった。


「サム。王都のアイドル友子様がいらしたわよ」


 リーゼの言葉に、サムたちが視線を向ける。

 人混みをかき分けて、気まずそうな顔をした友子がステージ衣装のままやって来た。

 サムがどう声をかけるか悩み、動けずにいると、友子の部下であるカルが前に出た。


「何やってるっすか、友也さん!」

「……カル。僕は友子さ。年齢十五歳の彼氏募集中の、かわいい女の子だよ」

「喋り方が素に戻ってるっすけど?」

「あ、ごほん! 友子だよー! 彼氏募集中の、十五歳でーす!」

「うぜぇええええええええええええええええええええええ!」


 上司の変わり果てた姿に我慢できなくなったのか、カルが拳を振りかぶる。

 しかし、女体化しても魔王は魔王だ。カルの拳を受け止めると、背後に周り、首を絞めた。


「だめだよー。女の子の顔を殴ろうとするなんて、ぷんぷん!」

「きめええええええええええええええええええええええ!」

「カルちゃんったら、僕のほうがかわいいからって嫉妬した駄目だよっ!」

「かちーん! 誰がどう見ても自分の方が可愛いじゃないっすか! そうでしょう、サムさん!」

「じゃあ、サムくんにジャッジしてもらうかなー!」


 お前誰だよ、ってくらい変貌を遂げている友子と、彼女の部下カルがどっちがかわいいのかというどうでもいいジャッジをサムに投げてくる。

 サムは、とりあえず素直に告げた。


「いや、別にどっちもどっちじゃない? リーゼ、アリシア、フラン、ステラ、水樹、可憐、オフェーリア、ゾーイ、ジェーンさんのほうがかわいいし。というか、メルシーちゃんのほうがかわいい!」

「身内贔屓じゃないっすか! つーか、ちょ、サムさん! 婚約者のオフェーリアさんはまだしも、ゾーイさんとジェーンが入っているのに、自分だけ仲間はずれとか結婚前から酷い扱いっす!」

「うっさい」

「酷い!」


 友子の腕を振り払って、サムに近づき抗議を上げるカルをスルーする。

 最近、カルの扱い方もわかってきた。

 彼女は相手にすると調子に乗るのでほどほどにしておくのが一番だ。

 サムはカルはさておき、友子になにがあったのか直接問うことにした。

 勇気を出して、恐る恐る問いかける。


「あのさ、友也じゃなくて友子さん? なにがあったの?」

「……僕はね、悟ったんです。かつては望んでいないのにモテたこともありましたが、そのせいで人間関係は最悪でした。しかし、変態どもはありのままの僕を受け入れてくれる! ならば、女体化したんだから自分の意思でチヤホヤされる第三の人生を歩んでもいいんじゃないかって!」

「本当に一週間の間にお前に何があったんだよ!?」


 なぜだか不明だが、吹っ切れていた友人にサムはただ叫ぶことしかできなかった。





 〜〜あとがき〜〜

 友子ちゃんですわ!

 次回、おばさま登場ですの!


 変態要素のない新作を始めております。

 お口直しにぜひ、お読みいただけましたら幸いです!

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