3「女体化祭りです!」





「待って待って待って待ってまって! なにそれ!? なあにそれ!?」


 腰に手を当ててポーズを取る、ジョナサン・ウォーカーことジョナ子と、デライト・シナトラことデラ子の存在に動揺を隠せない。

 なぜ誕生日を祝うために女体化しなければならいのか。まず、そこからわからなかった。

 あと、ポージングをとっていることから、割と楽しんでいるのではないかと思われる。


「……母も大概ですが、まさかウォーカー伯爵とシナトラ伯爵まで」


 オフェーリアが、実母と違ってまともであったはずのふたりの伯爵に頬を引き攣らせている。


「終わりだ。この国は終わった。神よ救いたまえ」


 ゾーイに至っては、準魔王のくせに神に祈り始めた。


「だ、旦那様、デライトさん、ギュンターみたいに女体化したって、そんな、馬鹿な。誰がそんなことを――って、エヴァンジェリンしかいねーよなぁ!」

「補足しておくと、竜王殿も女体化には一枚噛んでいる」

「なにやってんの、あの竜王はぁああああああああああああああああああ!」


 エヴァンジェリンが変態どもに押し切られて女体化に関わったところまでは想像できたが、まさか竜王炎樹まで噛んでいるとは思わなかった。

 想定外のことばかりが起きて、叫んでばかりなので、喉がカラカラする。


「落ち着け、サム。私たちに驚いているようだと、先がもたんぞ」

「――え? 先? まさか」

「女体化したのが俺たちだけのはずがねえだろ。おら、向こうを見てみろ」

「向こうって」


 デライトが指差す方向に目を向けると、そこには――青いドレスに身を包み、白い手袋とヒール、そして頭には王冠を置いた十代後半の美少女がいた。


「あ、僕わかっちゃったー」


 スカイ王国において、青色を公の場で身につけることができる者は限られている。

 王家の人間が、それに連なる者だけだ。

 美少女は、青空のように真っ青なドレスを身につけ、王冠を載せている。挙句の果てに、サムの妻のひとり、王女ステラにとても似ていた。きっと並べば双子の姉妹のようだろう。


「サムよ、お誕生日おめでとうである!」

「聞き覚えのない声だけど、この口調はもうね。陛下っすよね?」

「うむ。そなたの叔父であり、義父であり、この国の愛される王であるクライド・アイル・スカイ改、女王クラ子ちゃんである!」

「出たぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! あんたの女体化は絶対あると思っていたよ!」

「ははははははは! 元気でよろしい! 成人したことで、心もビンビンであるな!」

「そうじゃねえよ!」


 王都に戻ってきて一時間も満たない間に、ものすごく心身ともに疲弊している。

 どこかで休憩したい。というか、港町に戻りたい。


「なるほど、エヴァンジェリン様の術式ですね。実に見事です」

「いや、ジェーンさん、感心しなくていいよ! 女体化に見事もなにもないでしょうに!」

「ふふ。人間の人生は短いのですから、楽しんだ者勝ちでしょう。微笑ましいものですよ」

「……ええー、嘘ぉ。ジェーンさん、懐が深海」


 女体化を微笑ましいですませることはサムにはとてもできなかった。


「ていうか、なんで陛下も旦那様もデライトさんも女体化しちゃったの!? 俺の誕生日を祝ってくれるのは嬉しいんですけど、絶対ギュンターの差金でしょう!?」

「サムよ、それは間違いである」

「え?」


 クラ子が、静かに首を横に振り、サムの肩にそっと手を置いた。

 当たり前だが嫌な予感しかしない。


「そなたはいつから、私たちだけが女体化していると思っているのだ?」

「……まさか」


 悪寒を覚えて身体が震える。

 カチカチと歯が鳴り、形容のできない感情が混ざり合った気持ちの悪さを覚えた。


「サム、よく聞いてね」


 笑顔を浮かべているのに、目がまったく笑っていないリーゼが止めと言わんばかりに告げた。


「サミュエル・シャイト誕生祭。どきっ、女体だらけのお誕生日会よ」

「なにそれぇえええええええええええええええええ!」


 リーゼの口から、彼女らしくないとんでもない単語が飛び出してきて受け止めきれない。


「あ、あのリーゼ様、まさか、女体だらけということはまさか」

「さすがオフェーリアね。そうよ。あなたの想像通り、サム以外の王都の男性は女体化済みよ」


 サム、オフェーリア、ゾーイは顎が外れるんじゃないかというほど口を開けて、唖然としてしまった。

 カルは腹を抱えて爆笑し、ジェーンも苦笑している。


「どうりで男がいないわけだよ! え? でもマジですか? まじでみんな女体化しちゃったの!? 友也とかなにしてんの? あいつも女体化しちゃったんですか?」

「少し歩きましょう」


 リーゼはサムの疑問に答えず、場所を変えるよう促す。

 誰が女体化した人間なのか、わからない女性たちとビクビクしながらすれ違い、サムは見慣れないステージの前の到着をした。


「えっと、ここは?」

「イグナーツ劇場の前に、臨時で作られたステージを。今から、始まることを心してみなさい」

「な、なんか不穏な」


 ライブが始まりそうなステージの前には、ひとだかりができている。

 全員が女性なので、なにが始まるのかと身構えていると、


「こんにちはー! みんなのアイドル友子ちゃんだよー!」

「きゃあああああああああああああああああああああ!」


 黒髪をツインテールにして、媚びた衣装に身を包んだ美少女が、媚びた声を出して、媚びた踊りを始める。


「いっくよー! 友子ちゃんの新曲! 恋のラッキースケベカーニバル!」


 少女の名前といい、歌い始めた曲名といい、誰が女体化しているのかわかりたくないが、サムにはわかってしまった。






 ※





「いっくよー! 友子ちゃんの新曲! 恋のラッキースケベカーニバル!」


 明らかに上司が女体化して、フリフリな衣装で踊り歌う姿を見た準魔王カル・イーラは死んだ目をしてつぶやいた。


「上司が、見た目が清純アイドルだけど中身はビッチ間違いない女になっていた件」


 ひどい言われようだった。





 〜〜あとがき〜〜

 CDが発売する際は、わたくしが低い声で歌わせていただきますわ!


 ……まともな内容の新作もどうぞよろしくお願い致します!

 口直しに、お召し上がりくださいませ!

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