7「伯母さんがいたそうです」③
まだ本格的なサミュエル・シャイト誕生祭まで時間があるということで、近くのカフェに入り、サムはマクナマラとふたりで話すことにした。
母メラニーは、すでにマクナマラとたっぷり話をしたそうで、娘クラリスと夫スティーブンとも交流を深めたそうだ。
母としては、サムとマクナマラが会話をすることで戦いを避けられるのではないかという一抹の望みがあるようだが、神聖ディザイア国の話を聞く限り難しいだろうと思われる。
ただ、ラッキースケベった遠藤友子に責任を取らせようとしていたことから、まったく話が通じないわけではない、と考えてみた。
サムとしても、血のつながった伯母と殺し合いをしたいわけではない。無論、守るべき優先度があるので、戦いになれば容赦なく斬り裂くことはできる。
「一応、言っておくが、サミュエルよ」
「はい?」
並々とジョッキに注いだ赤ワインをビールみたいに飲み干したマクナマラが、顔を赤くして話し始めた。
「気づいていないかもしれないが、この王都では、呪いが充満しているぞ」
「え?」
「害はないのだが、魔王エヴァンジェリン・アラヒーが多くの男を女体化させたのだ。行き場を失った呪いの残滓が、よくわからん固い結界のせいで外に出れずにいるようだ」
「害はない、んですよね?」
給餌にワインのおかわりを頼んだマクナマラが頷く。
サムは安堵した。
「軽く酔っ払った感覚になっているだろう。誰も彼も気が良いのはそのせいだ」
「なるほど。どうりでみんなのテンションがいつもより高いわけだ。あの、妻たちのお腹に影響は?」
「あったらすでに止めている。少々、魔力抵抗の強い子になるかもしれんが、悪いことではない。ところで」
「はい?」
「妻たちを孕ませたのは、人間であった時か? 魔王に至ってからか?」
「急に下世話!」
急に夜の話をされてしまい、サムが叫んだ。
いくら伯母であっても、答えられないことはあるのだ。
母でさえ、話せないような内容を、よく訪ねてきたものだと思う。
「な、なんだと! 男と付き合ったこともなければ、手も繋いだこともない私には話せないと言うのか!」
「誰もそんなこと言ってねーよ!」
「では、シャキシャキ話せ! 夜の営みの内容を話せと言っているわけではない。まあ、お前が話したいというのなら、聞いてやろう」
「話したくないから! ああ、もう、面倒だな! 人間のときにだよ!」
「ならばよし! お前の母の姉ということで、奥方たちにも挨拶をさせてもらった。皆よい子たちだ。大事にするといい。あと、義父の胃も気遣ってやれ」
酔っ払っているせいか、マクナマラとの会話は難しい。
真面目な話をしたかと思えば、急に自虐するし、気を抜けば真面目な話に戻るし。
「あんたさ、俺の子供が魔族との混血だったらどうしていたつもりだ?」
「さあな。仮定の話をしても仕方がないことだ。生まれてくる子に問題はない。私はそれだけでいい」
「あんたが伯母さんでも、俺の家族に手を出したら、次の瞬間その首が宙を舞っていると思えよ」
「おばさんと呼ぶな! お姉さんと呼べ!」
「ちゃんと最後まで真面目に話しようよ!」
はぁ、とサムがため息をつく。
わざとやっているのか、本気なのか、マクナマラの態度から読み取れるものはない。
魔族への敵視はあるが、嫌悪はなかった。
「あー、ほほん。お前は勇ましい子だ。安心するといい、今回は遊びにきただけだ。お前が魔王であったとしても、手を出すつもりはない。今日は姉と弟として交流を深めようではないか」
「姉じゃねーだろ! 勝手に弟するな!」
マクナマラはどうしても伯母と呼ばれたくないようだ。
ふと、サムは話のついでに聞いてみることにした。
「あんたさ、魔族を敵視している国の聖騎士みたいだけどさ」
「うむ」
「魔王の友子がラッキースケベの責任を取るって言ったらどうしていたんだ」
「…………」
「黙んなよ! お前、本当に敵対する気あるのかよ! もっと真面目に敵になれよ!」
「馬鹿もの! 既婚者には私の苦しみはわからん! 魔族と戦う聖騎士でありながら、魔王でもいいかな、と思うほど切実なんだぞ!」
「知らねーよ!」
「父に、孫はまだですか、と聞かれる悲しさ! いっそ天から子供が降ってくれば良いのに!」
よくわからないスイッチが入ってしまったマクナマラは、祭りの準備が整ったと案内が来るまで、ずっとサムにくだを巻き続けるのだった。
〜〜あとがき〜〜
次回、本番ですわ!
新作始めております!
お口直しにぜひお読みくださいませ!
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