69「情報量が多すぎました」
アンデッドをすべて片付けたサムが、メルシーと一緒にみんなのところへ戻ろうとした時。
――誰かが迫り来る小さな音が聞こえて、サムは反射的に背後に右腕を振るった。
スベテヲキリサクモノが発動し、不可視の斬撃が放たれる。しかし、手応えがない。
「ほっほっほっ、気配を殺し、息も止め、心臓も極力動かさんようにしていたのに敏感な子じゃのう」
「……ありえねぇ」
サムの右腕に、小柄な老人が胡座をかいて座っていた。
人ひとりの重さがまるで感じられず、いつ腕に乗ったのかさえわからない。
サムが目を見開く。隣では、メルシーがようやく振り向き、老人を認識して驚き、反射でブレスを吐こうとしていた。
「ほっほっほ! そちらのお嬢ちゃんもまだまだじゃ」
手に持っていた杖をくるり、と振るうと杖の先端でメルシーの額をこんっ、と突く。
次の瞬間、メルシーはブレスを吐くこともできず、ぶっ飛ばされた。
「メルシー! ていうか、いつまで乗ってるんだよっ!」
地面を蹴ったサムが、腕を引っ込め老人に蹴りを放つ。が、サムの大地を破壊するほどの一撃は、実に容易く老人の右腕によって受け止められた。
「――っ」
「お主は驚くほど強く、早いが、技術がなってないのう。経験も足りん。だからわしよのうなプリティーなおじいちゃんに簡単に遅れをとるんじゃ」
老人は、左腕を縦一線に振り下ろし、サムの右足の膝から下を両断した。
痛みが遅い、バランスを崩してサムが地面に手をつく。
だが、痛みなどもう慣れた。今更、足一本失ったくらいでどうこうされるほどではない。
体勢を崩したまま、左足から『キリサクモノ』を放つ。
これでもかと魔力を込めた蹴りと斬撃が老人を襲うが、ひょい、と躱されてしまう。
行き場を失ったサムの蹴りが地面を砕き、斬り裂いていく。
「ほっほっほっ、さすが魔王。恐ろしい恐ろしい、威力だけなら、のう」
「くそっ!」
本来なら、躱すことさえ困難に等しい斬撃さえ難なく避けられてしまい、サムはスキルに執着せず魔法に手段を切り替えた。
しかし、老人には想定内だったようで、杖の切っ先で喉と、胸と、腹を貫かれる。詠唱する気はなかったのでそのまま魔法を撃とうすると、杖が心臓に刺さった。
「こらこら。このような場所で大きな魔法を撃ってどうするのじゃ。自然を破壊する気かのう?」
超速再生のおかげで絶命は避けたが、魔法を使おうとしていた思考が停止し、魔力が霧散する。
「お主ら、魔族は怖く強いが、心臓や脳が重要な臓器であることは人間と変わりないのじゃよ。それに、動きもさして人間とかわらん。ならば、力の有無ではなく、力の使い方が上手い方が戦いを制する時もあることを覚えておくとよい」
ほっほっほっ、と笑った老人はサムが再生を終え動きを再開するよりも早く、小さな拳を振るった。
サムの顔面、腹部に衝撃が走る。内臓がかき混ざった感覚と、浮遊感。続いて、自分の身体が吹っ飛び、地面を転がっていくのがわかった。
「……お、おじいちゃん……やるじゃないの」
身体中が、目を逸らしたくなるほどぐちゃぐちゃにされながら、なんとか立ちがったサムは声が届かないとわかっていて吐き捨てる。
老人が、村が視認できないほど転がされたことに驚きながら、まだまだ強い奴は多いと思い知った。
魔王として覚醒したことで、自分よりも強い存在は数えることができると思っていたが、それが実に甘い関係だったと認識を正す。
世界は、こうして強い奴がいるから面白い。
「ほっほっほっ。割と本気で痛めつけてやったんじゃが、心が折れぬのはよし。楽しそうに笑うのは、なんか怖いのう」
「動きまでくっそ早いんですけど」
「ほっほっほっ。そりゃおじいちゃんは鍛えておるからな!」
「――んで、あんた誰?」
もう戦う気がないのか、懐から煙管と取り出し慣れた手つきで火をつけ、煙を吐き出した老人は笑った。
「すまんすまん、ついウルリーケの弟子の力を見てみたくてのぅ」
「え?」
「わしの名は、エディー・クロワット三世。日本にいた頃の名は、山尾小太郎。短期間じゃったがウルリーケの喧嘩友達であり、かつてこちらの世界に召喚された勇者じゃよ」
「――情報量多っ!?」
〜〜あとがき〜〜
12月もよろしくお願い致しますわ!
強化イベントっぽいのですが、とりあえずは王都へ数話で戻りますので御北くださいませ。
〜〜お知らせ〜〜
新作を始めました。ぜひお読みいただけたら幸いですの。応援よろしくお願い致します!
タイトルは「異世界から帰還したら地球もかなりファンタジーでした。あと、負けヒロインどもこっち見んな。」ですわ!
気に入ってくださったら、フォロー、★★★をよろしくお願い致しますわ!
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