68「友子の危機と出会いです」⑥





「な、ななななな、なにを」

「あら、まあ」

「申し訳ありません! 僕の意思ではなく、もっと大きな宇宙の意志といいますか、なんというか、ごめんなさい!」


 ラッキースケベをすることは諦めていた友子だが、空気の読めない発動だけはなんとかいしたいと常々思っていた。だからと言って、自分で制御できるものなら初めからラッキースケベをしていない。

 感動の姉妹の再会に、ラッキースケベという水を差してしまったことに、友子は土下座以外できなかった。


「――まさか、貴様……魔王遠藤友也だな!」

「へ?」


 男性時の原型がないほど美少女と化した友子の正体を見破ったマクナマラに驚き、床から顔を上げてしまう。

 すると、眼前には、こちらを向いているマクナマラの姿がある。そして、スカートだけではなく下着までずり下ろされていた彼女の――。


「凝視するな!」

「申し訳、ぼへっ」


 頭部を容赦なく踏み潰されて、友子は再び床に突っ伏した。

 その間に、マクナマラは足首まで下がっていた下着とスカートを上げると、真っ赤な顔をして唾を飛ばした。


「やはり貴様は遠藤友也だ! 通りで名前が似ているはずだ! 最初は赤の他人かと思ったが、このいやらしい手つき、容赦ないスケベ心、なによりも私に与える羞恥の大きさ! 二十年前と変わらない! まさか、生き別れたメラニーと再会した瞬間に、スカートを下着ごとずり下ろされるとは思っていなかったぞ!」

「誤解です! 狙ってやったわけではないんです」

「ならば、どうしてこのようなことをしたというのだ! いくら我々が敵対しているからと言って、許される行為ではないだろう! 我らは魔族を敵視しているが、辱めたことはないぞ!」

「本当におっしゃる通りです! ごめんなさい!」


 床に手をつき、謝罪を繰り返す友子に、マクナマラは大きな息と共に怒りを吐き出して背を向けた。

 ごほん、と咳払いすると、友也とマクナマラのやり取りを苦笑して見守っていたメラニーと向き直る。


「……改めて、メラニー。会いたかったぞ」

「……お姉ちゃん」

「覚えていてくれてよかった。どこかで生きていると信じていた」

「うん」

「話は聞いている。苦労もたくさんしたようだな。姉でありながら、傍にいることができずすまなかった」

「いいの。私も、お姉ちゃんと会えてよかった。覚えていてくれてよかった。どこかで生きていてくれると思ったけど、どこをどう探していいのかわからなくて」


 姉妹は抱き締めあった。

 離れていた長い時間を取り戻そうと、強く、より強く。

 しばらく無言で、お互いを確認するように抱きしめ合ったふたりが離れる。


「……メラニー。今のお前には良き夫、良き子がいると聞いている。ぜひ、紹介してほしい」

「もちろんよ。あの、ひとつ聞きたいのだけど……お父さんは?」

「父も生きている。安心していい」

「よかった」


 父親のことも覚えていたメラニーが、存命に安堵の息を吐く。

 マクナマラは表情を曇らせた。


「メラニーが生きていてくれて嬉しい。再会できたことも感謝している。だが、結果的にお前を悲しませてしまうのだと思うと……やりきれない」

「お姉ちゃん? なにを」


(結局、こうなっちゃうんですかね)


 土下座の体制を維持していた友也が、声音の変わったマクナマラを残念に思った。


「私たちが生まれた国のことを覚えているか?」

「あまり……お母さんやお父さん、お姉ちゃんのことは覚えているんだけど」

「そうか。それはよかった。お前はそのままでいてほしい」

「お姉ちゃん?」

「私たちが生まれたのは神聖ディザイア国。女神を唯一絶対の神として崇め、魔族を世界の異物として敵対している」

「……魔族を? まさか」


 姉の言葉の意味を汲み取り、メラニーは息を呑んだ。


「そう、魔王となったサミュエル・シャイト。つまり、メラニーの息子は、私と父の敵だ」

「……そんな」

「だが、今何かをするつもりはないので安心しろ。今日はプライベートで来た。もっとも、そこの変態大魔王だけはこの場で首を切って持ち帰りたいがな!」

「――話をしましょう」


 今が好機であると友子は確信した。

 メラニーを前に、マクナマラはプライベートだと言った。

 友子の知る、神聖ディザイア国の人間は、魔族を見れば襲いかかる狂信者だ。魔王が相手でも、生き別れの親類が目の前にいても、まず魔族を排除することを優先する。

 しかし、マクナマラは違った。

 辱めを受けた魔王を相手に、生き別れの妹を優先した。

 今までにない、神聖ディザイア国民だ。

 会話が可能なのだ。


「……なんだ? 言っておくが、二十年前私を公開陵辱した件も、再会した妹を前に辱めた件も、許す気はないが? それともなにか? 責任を取るとでも言うのか?」

「いえ、年上の女性はちょっと」

「――ぶっ殺す!」


 会話をするつもりが、怒りを買ってしまった。

 自分の素直さを呪いながら、マクナマラが暴れないように再び土下座する友子だった。




 〜〜あとがき〜〜

サムの帰国に向けてもうひとイベントです。

いつもコメントどうもありがとうございます。本日も体調不良のため、コメントお返しお休みさせていただきます。よろしくお願い致します。

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