49「王都で激突のようです」①





 スカイ王国王都。愛の女神エヴァンジェリンの神殿にて。

 貴族たちが率先して女体化したことをきっかけに、王都の男性たちが順々にエヴァンジェリンによって女体化していた。

 ときにはエヴァンジェリンではなく、竜王炎樹を指名して女体化しては、お布施をする者もいるが、些細な問題だ。

 聖女霧島薫子は女体化した元男性たちに、女性として過ごすアドバイスを定期的にしていた。


 こうしてサミュエル・シャイトのためにスカイ王国国民女体化祭を企むギュン子・イグナーツは満足そうに頷きながら、その光景を見守っていた。


「素晴らしい。こんなにも計画がスムーズにいくとは……我ながら、自分のことの運びのうまさを讃えたい。きっとサムも喜んでくれるだろう。もしかしたら、感極まって僕を栄誉正妻にしてしまうかもしれない! 嗚呼、僕はウルリーケの立場まで脅かしてしまう、罪深き咎人っ! 漆黒の翼を生やす堕天使のごとく!」

「閣下! ギュンター閣下! ノリノリのところを失礼致します!」


 自らを抱きしめ、ぶるりと震えていたギュン子に、すでに女体化した騎士のひとりが駆け寄り膝をつく。


「なにかな、騒々しい。今は、女神エヴァンジェリン様が民を女体化する神聖な儀式を行なっているのだよ。見てごらん、あの瞳を。輝いておられる!」

「いえ、自分には死んだ魚のような目に見えます! おそらく閣下の目は節穴かと!」

「お黙り! それで、慌ててなにがあったのかな?」


 割と生意気な兵士だったが、いつものことなので放っておく。

 おそらく女体化したおかげで気が昂っているのだろう。

 それよりも問題は、報告内容にある。


「そうでした! 捉えていた、変態魔王様が見張りにラッキースケベをして逃げ出しました!」

「……さすが魔王だと褒めてあげよう。見張りに被害は?」

「――もう男の子に戻れない、と譫言で」


 ギュン子と女騎士の瞳から涙が流れた。

 女の子になったばかりの男の子に、どんなことをすればそのような譫言を言わせるのか。

 蝶よ花よと公爵家で育てられてきたギュン子には、想像することさえできない。


「おのれ変態魔王め! 女体化したての男子にラッキースケったらどんなことになるのか想像さえできなかったのか! ええい、それで変態魔王はどこに行った!」

「あまりにも気持ち悪かったようで、見失っていまいました。他の見張りも、自分の今後の人生を賭けてまで止めたくなかったのでしょう」

「使えん! まあ、いいだろう。おそらく、転移で逃げようとしたようだが、残念だったね。君の転移が及ばないように、僕と女王陛下と国中の結界術師を総動員して王都に結界を張っているのさ! いくら変態魔王が転移の使い手だからとはいえ、逃げられまい! 奴は王都の中にいる。草の根分けても探し出せ!」

「――はっ! ところで、見つけた場合の報酬は?」

「……君、意外と図々しいね。まあいいだろう。僕は太っ腹だ! あ、いや、太くはないがね? 発見した者には、秘密裏にキャサリン殿に頼んであった魔法少女の僕専用衣装と一緒に、その者の衣装も作るよう依頼しよう」

「ぶっ飛ばすぞ!」

「――え? 今、配下から罵声を浴びせられた気がするのだが?」

「気のせいです、閣下。目が節穴で、耳にまで……おいたわしい」


 部下と微笑ましいやり取りをしていると、さらに女体化済みの騎士が走ってきた。


「閣下! ギュンター閣下!」

「ええい、どいつもこいつも、僕をギュンターと呼ぶな! 今の僕は、ギュン子閣下だ!」

「きも……あ、いえ、失礼致しました。ギュン子閣下! じゃなくて、そんなのどうでもいいんです!」

「どうでもいいとは何事だ! 僕がギュン子であるかないかよりも大きな問題が起きたとでもいうのか!」

「起きたんだって! そんなことよりも、変態魔王がこちらに単身向かってきます!」

「君とはあとで話し合いが必要だな! 差し向けた人員はどうした!」


 ギュンターの問いかけに、騎士が悲痛な顔をして、口を開いた。


「――っ、すべてラッキースケベの目に遭い、見るも無惨なことに。おそらく、性癖が歪んだでしょう」

「おのれ! 前途有望な若者たちを!」

「閣下、お逃げください。いくらあなたが世界創造以来の変態だとしても相手は変態の上に魔王です。しかもラッキースケベなる神器を携えています。どうか、女神様と!」

「ええい! 僕が引いたら、誰がスカイ王国の女体化を守るのだ! 守りを固めるんだ、であえ! であえぃ! 僕を、女神様ご一家を、変態大魔王から守るのだ!」

「――はっ! あ、ボーナスは出ますか?」

「さっきから、君たちは図々しいね! いいだろう、変態大魔王に一太刀でも浴びせたら、ポケットマネーから金一封を出そう!」

「しゃあおらぁあああああああああああああああああああああああああ!」


 金一封と聞き、勢いよく飛び出していく騎士たちだったが、しばらくして、


「らめぇええええええええええええええええええええええ!」

「お嫁さんになれなくなっちゃうぅううううううううううううううう!」

「お婿にいけなくなっちゃうぅうううううううううううううううう!」

「目覚めちゃうぅううううううううううううううううううううううう!」

「なんかくりゅぅううううううううううううううううううううううう!」


 悲痛な叫びが木霊し、ギュン子は相手が魔王の中で最も恐れられている魔王であることを再認識する。


「我が国の精鋭たちが、騎士の中でもトップクラスの彼女たちが、為す術もないないとは……ついに僕の出番のようだね。惜しむなら、まだ王家のビンビンを取得できていないことかな。いや、望まずともクリーママに鍛えられてきた僕に恐いものはない! サムのために、いざ出陣だぁあああああああああああああああああああああ!」


 こうして人類代表の変態と、魔族代表の変態が激突することが決まった。






 〜〜あとがき〜〜

この女体化騒動はちゃんと本編です。ちゃんと今後に関わります。

嘘みたいでしょう?


本編がまだ魔法とバトルとシリアスだった頃が掲載された書籍1巻2巻とコミカライズがございます。

コミカライズでは、サムとウルのまーとーもーな修行編がコミカライズオリジナルとしてお読み頂けます!

ぜひ、お口直しにどうぞ!

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