50「王都で激突のようです」②




 魔王遠藤友也は怒っていた。

 理由は、ギュンター・イグナーツのお馬鹿な目的のために監禁されていたからだ。

 事情を話してくれさえすれば、まったくしょうがない、と笑ってスカイ王国から一時避難していたというのに、あえて自分まで女体化させようとしたのだ。

 久しぶりに、怒った。


 ――激おこである。


 普段は、極力ラッキースケベをしないように律している――といっても勝手にしてしまうが――あえてラッキースケベることにした。

 魔王になってから初めてだ。つまり、それだけ追い詰められていたのだ。

 ここまで決意させたギュンターに賞賛さえ与えたい。


 いく手を阻むように女体化済みの騎士が神殿前で立ち塞がるが、本気のラッキースケベで撃退していく。


「君たちが女体化済みの男性のおかげで罪悪感がなくていいよ。ありがとう。もし、騎士の中に本当の女性が含まれていたとしても、申し訳ない。運が悪かったと思って諦めてほしい」


 騎士たちが、友也の容赦のない言葉に恐怖する。

 ただでさえラッキースケベを巻きおこしている友也が、本気でスケベったらどのような事態に陥るのか想像すらできなかったのだ。


「待ちたまえ!」

「閣下!」

「やはり君たちには荷が重かったようだね。僕たちに任せたまえ」


 神殿からギュン子が現れる。

 すでに女体化し、ドレスまで身に纏ったギュン子に友也の頬が引き攣った。


「女体化どころか、部下に閣下と呼ばせているとは……ずいぶんと出世したみたいですね」

「無駄な抵抗はやめたませ。君が魔王であったとしても、いいや、魔王だからこそ、ここで僕には勝てないのだから!」

「へえ。言ってくれますね。エヴァンジェリンや竜王ならいざしらず、人間を超越した変態であっても君は人間だ、ギュンターくん。僕に勝てるなどと夢を見ない方がいい。言っておきますが、僕は君やサムに本気で戦う姿を見せたことはありません」

「わかっていないな、変態魔王!」

「なに?」

「君が強いことはわかっている。だからこそ、サムと同じように、強すぎるゆえに力の使い所が限られていることも!」

「……僕がサムのように躊躇うとでも?」


 剣呑な雰囲気が友也から漂い、敵意が襲う。。

 彼を知る魔族なら失禁し、許しを請うだろう。だが、相手はギュンターだ。

 ぶつけられた敵意も涼しい顔をして受け流している。


「躊躇いはしないだろうが、君はできない。なぜならすでに君はスカイ王国に愛着があるからだ! サムを敵にしたくないだろうしね! なによりも、君のような変態に優しい国が、ここの他にどこにある!」

「変態筆頭に言われたかねぇです!」


 変態に変態と言われることだけは不満だが、おおむねギュン子の言葉に間違いはない。

 ギュン子の結界付きではあるが、平気で街中を歩けるのはスカイ王国くらいだ。

 変態どものせいで慣らされている国民は、友也がラッキースケベをしても最初こそ反応は様々だったが、今では「まあ変態魔王様だし」ですませてくれる。

 愛着がないと言ったら嘘になる。


「ですが、ギュンターくん。君はやりすぎましたね。せめて僕に相談するなりするのならさておき、問答無用で監禁し、女体化させようとするとは。僕が女体化したら、ラッキースケベがどんなことになるのか想像もできないのに!」

「今までスケベしてきた分、スケベられたらいいのではないかな? まさか、君は! スケベられる覚悟がないのにスケベっていたとでもいうのか!」

「やりたくてスケベしていたわけじゃないんだよ! ああ、もう、駄目だ! ここまで頭にきたのは、親切にしてくれていた女性が僕のラッキースケベを目当てだと知った時以来だよ」

「……それはいいことではないのかい?」


 ラッキースケベ目当てな女性なら、むしろ相性は最高ではないか、とギュン子が首を傾げる。

 しかし、その件で女性不信になりかけた友也には違う。


「黙れ! だが、僕は魔王の中でも寛大な魔王だ! 痛めつけたりはしませんよ。そうですね、君とクリーくんを南の島にご招待しよう! もちろん、ふたり以外誰もいない! 君とクリーくんを、異世界のアダムとイヴにしてあげようじゃないか!」

「おのれ魔王! 仮にも人だったとは思えぬ所業!」

「君は、本当に人かどうか疑いたくなる所業だね! 神聖ディザイア国の狂信者たちだってここまで狂ってないからね!」

「愚かな。僕を狂信者と比べないでくれたまえ。僕を突き動かすのは信仰ではないのさ」

「一応、聞いておきますけど、なんですか?」

「――愛さ!」


 きらりん、とウインクするギュン子に、本当に十数年ぶりに魔王遠藤智也は殺意を抱いた。


「ぶっ殺す! 墓標には変態が眠ると書いてやるから安心しろ!」

「はははははは! 君は知らないのかな? ――愛は勝つのだということを!」


 いい加減、問答にも飽きた友也が踏み込み、ギュン子に拳を振りかぶる。

 が、不可視の壁にぶつかる。


「仮にも僕は魔王ですよ!」


 指が砕ける音が響くも、気にせず友也は拳を振り抜く。

 ギュン子の多重に張られている結界が、一枚、二枚と砕けた。


「――驚いた。ただの拳で、僕の結界を破るとは」

「君の結界は強固だ。強固すぎるが、こっちも犠牲を覚悟すれば手も足も出ないわけじゃないんですよ。まあ、すべて叩き割るのは苦でしょうが、幸いなことに僕には再生能力がある」


 砕けた拳が再生され、元通りになる。

 次は結界を全て砕くと魔力を高めていく。

 しかし、ギュン子は驚きはしたが、さほど慌てはしない。いつもの調子を保っていた。


「君と戦ってあげたいのはやまやまだが、本気で僕と戦いたいのなら、まず僕の手下と戦ってもらおうか!」

「――なんだと?」

「いでよ、女体化四天王!」


 ギュン子が指を鳴らすと、神殿から着飾った女性たちが現れた。

 彼女たちはドレスの端を掴み、礼儀よく一礼すると、それぞれ名乗った。


「ダグ子だ」

「ボー子でーす」

「……青子です」

「レム子ちゃんだ!」


 どこかで見たことのある女性たちを目にし、


「はぁあああああああああああああああああああああああああああ!?」


 友也は絶叫を上げた。





 〜〜あとがき〜〜

 さあ、誰が女体化したでしょーか!?

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