45「メルシーが来ました」
「パパぁ!」
勢いよく飛びついてくるメルシーを、踏ん張ってサムが抱き締める。
身長が控えめなサムと人の姿のメルシーの体格差はあまりない。竜体型のときのほうがよほど大きいのだが、これはこれで大変だった。
「こら、メルシー。お留守番するって約束したのに」
「だって退屈なんだもん! みんな忙しいから遊んでもらうの悪いし、それに――あ」
「それに? 王都でなにかあったの?」
言葉を途中で止めたメルシーにサムが尋ねてみると、彼女はブルブルと首を横に振る。
「メルシー知らない! なにも知らないもん! ギュンターからパパに内緒って言われたからなにもしらない! お菓子もらったからなにもしらない!」
「あいつ……絶対、変態的なことしてるだろぉ。メルシーまで口止めして。まあ、いつものことだけどさぁ」
とりあえず、ギュンターは王都に戻ったら〆ると決める。
「来ちゃったものはしょうがないんだけどさ。アリシアが心配しないといいなぁ」
「メルシー、ちゃんと書き置きしてきたよ!」
「人間の字で?」
「うん!」
「よーしよしよしよし! いい子だ!」
「えへへー!」
わしゃわしゃ頭を撫でてあげると、メルシーが嬉しそうな声を出した。
「あの、領主様?」
恐る恐る声をかけてきたのは、自宅の扉を破壊されて悲しそうな顔をしていた町長だ。
「そちらの快活な方はどちら様でしょうか?」
「私か? 私は、サムパパとアリシアママの元気な子! メルシーちゃんです!」
「ちょ、メルシー! その説明だといろいろ誤解が」
「ははは、大丈夫です、領主様。我々は誤解などしておりません。要するに、父親のように慕っているということなのでしょう?」
「そうですそうです! いやぁ、よかった! これが王都ならとんでもない誤解に誤解が重なっていましたよ」
物分かりのいいガインにサムが胸を撫で下ろした。
別にメルシーを娘のように思っていないわけではない。むしろ、娘だと断言できる。しかし、それを言ってしまうと、見た目のせいで色々誤解を受けるのが事実だ。
十四歳、数日後に十五歳になるサムが、同い年くらいの少女の父親になるのはありえない。
義理の父親と想像してくれるなら問題ないのだが、予想と斜めに着地するのがスカイ国民だ。
ガインたちが理解があってよかったと感謝する。
「領主様はお若いですから、ええ、ええ大丈夫です。年頃の少女にパパと呼ばせる趣味があっても、ええ、私たちは受け入れますとも。なあ?」
「……貴族の方々の趣味嗜好に口を出すことはしません」
「前の領主が散々だったからな。パパプレイくらいどってことはねえさ」
「誤解してる!?」
安心したのも束の間、ガイン、マインツ、ロックスは誤解していた。
わかっています、と優しい目を向けられてサムは絶句する。
よく見れば、話し合いに参加しているが口を開かないマルル、ハンクス、ハンナもドン引きした目でサムを見ている。
これはまずい。
「あの、違うんです。誤解です。パパプレイなんて、誤解なんです。俺はどちらかと言ったら、甘えられるよりも甘える方が――」
「サミュエル様。余計なことを言うと状況が悪化するかと」
思わず自分の趣味嗜好を口走りそうになったサムを、やんわりジェーンが止めてくれた。
サムは慌ててお口にチャックをする。すると、メルシーも同じように、手で口を塞いだ。
「皆様! サミュエル様のことは置いておきましょう! その前のお話に戻してくださいませ! この町にドワーフ以外の魔族が住んでいるのですか?」
話の軌道を修正しようとするオフェーリアが、サムを伺う。
しかし、サムにはドワーフ以外の魔族を感じない。
目配せをしてみると、ジェーンとゾーイも同じようだ。
「いえ、奥様。彼女たちは、この町に住んでいるってわけじゃねえんです」
「といいますと?」
「彼女たち――いいえ、人魚たちは、海に住んでいるんです」
ロックスの言葉を聞いたサムは、時間が止まったような錯覚を受けた。
「なん、だと?」
今、彼はなんと言ったか、繰り返し脳で言葉の意味を考える。
考え、考え、考えた結果、サムは破顔した。
「人魚さんいるの!?」
河童さんに続き、地球に住まう人なら誰でも一度は会ってみたい存在にサムは今日一番の胸の高鳴りを覚えた。
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