書籍2巻発売記念SS「子供の名前です」①




 久しぶりの休日を迎え、家族と一緒にのんびりとした時間をサムは過ごしていた。

 少しずつお腹の大きくなってきたリーゼたちは生まれてくる子のために、編み物を頑張っている。リーゼ、アリシア、フランは器用なので靴下や手袋、ついでとばかりに父のセーターも編む余裕があった。

 しかし、身体を動かすことが得意で、妊娠中でも隠れて身体を動かそうとする花蓮や、剣技に関しては器用だが他の面では不器用な水樹、勉強は得意だが知識と指の動きが噛み合わないステラは編み物に悪戦苦闘中だった。

 すっかり妻のひとりに組み込まれているオフェーリアも、編み物は普段したことがないようだが、覚えが良いようであっという間にリーゼたちに追いついていた。


 自称婚約者のカル、ジュラ公爵、竜王はそれぞれ用事があっていない。

 カルは自分の分も作って欲しいっす、とちゃっかり。

 ジュラ公爵は編み物も得意なので、寝る前に少しずつ作っているようだ。

 竜王炎樹は生まれてくる子のサイズがわからないので生まれてから考えるとのこと。

 そして、三人は口を揃えて言うのだ。


「――まず、子供を作らないと」


 エヴァンジェリンも三人と同じのようだが、今は女神業が忙しいので落ち着いてからでいいと言っている。

 知らない間に、側室になるような話が出ているダフネは、なぜか修行が必要です、と神妙な顔をしていた。

 あと、ジェーンは、いつでも歓迎ですと言っているし、ゾーイとは最近交換日記を始めた。

 ダニエルズ兄妹のティナとはあくまでも兄妹という関係だが、彼女はサムの実母メラニーのもとにちょくちょく通って「サムお兄ちゃんの生まれてくる子供なら、甥か姪だからなにかしてあげたい!」と編み物を習っているそうだ。メラニーも生まれてくる孫のためにいくつか用意してくれるとのこと。


 スカイ王国では、生まれてくる子供のために必要なものを用意するのが当たり前だが、手作りできるものはできるだけ手作りしたいという流行がここ数十年あるようだ。

 中には、既製品のもので間に合わせる人も少なくないので、絶対ではないが、流行なのでちょっとした遊び感覚で始める人もいれば、周囲よりもいいものをと意気込む人もいるという。


 編み物に夢中になっている女性たちに対し、男性たちの行動は様々だ。

 妻と一緒に編み物をすることで夫婦の中を深める者から、子供のために家具を新調するため一生懸命働く者、手作りでベッドを作ったり、テーブルを作ったり、と男性たちも忙しい。

 サムも何かしようかなと考えていたのだが、義父たちから生まれてくる孫たちへ、と必要なものをすべて揃えていただいたので、これといってすることがない。


 そこで、奥さんたちのために料理をしてみた。

 各家の料理人、王家の食卓を預かる料理長、ダフネを巻き込んでこちらの世界にない料理や菓子類に手を出したのだ。

 その結果は大成功だった。


 妻たちも喜んでくれたのはもちろん、王族関係のパーティーで出席者から大絶賛だったようだ。

 せっかくなので、母たちや、親類たちを呼んで食べてもらったら、やはり喜ばれた。

 遊びに来る魔族たちからも絶賛された。


 同じ日本出身の友也もいくつか故郷の料理などで稼いでいるようだが、もともと料理は苦手、味を知っていても再現できないとのこと。

 聖女薫子は料理好きなのだが、こちらの世界の食材の微妙な違い、手に入らない食材などから苦戦していたようだ。それでもケーキなどは作れるようで、エヴァンジェリンと一緒に食べたりするらしい。

 薫子の「スーパーとか百均に行けばなんでも安く揃うって素晴らしいことだったね」と言われて、確かに、と納得したのは言うまでもなかった。


 そして、今日。


「ねえ、そろそろ名前を決めたいと思うのだけど?」


 編み物の休憩中に、お腹をさすりながらリーゼがサムに言う。


「わかっています。いろいろ考えていました」


 サムは待っていたとばかりに、懐から何枚もの紙を取り出した。

 一枚一枚にびっしり、古今東西様々な名前が書かれている紙が十枚。


「……サム。あのね、候補が多すぎ!」


 紙を手に取り、人通り名前を読んだフランが、ばっさり告げた。





 〜〜あとがき〜〜

 書籍2巻の発売日と少しずれてしまいましたが、発売記念SSです!

 次回は「奴」の登場です!

 お楽しみに!


 書籍2巻が発売となりました!

 ぜひお手に取っていただけますと幸いです。何卒よろしくお願い致します!

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