閑話「未来から孫が来ました」⑤
空から王宮に入ったサムたちは、巡回中の騎士に見つかったが、彼らはサムとは顔見知りであるため顔パスですんだ。
きっと、クライドに呼び出された、くらいに思っているのだろう。
サムは魔力を探ると、厳重に結界が張り巡らされている部屋を見つけ、その中から異質な魔力が集まっていることに気づく。
「仮にも王宮の一室でなにをやってるんだ! 隠す気満々じゃないか! 結界本気で張りすぎだろ! いままで気づかなかったよ!」
「さすがクライド・アイル・スカイと言うべきでしょうか。ギュンターくんが現れるまで、国一番の、いえ、大陸一番の結界術師だったことはあります」
「いや、今は褒めるときじゃねーから!」
隠し部屋は、王宮の中層階にある奥の壁の中にあった。
魔力が視認できるサムには、しっかりと扉の形に内側から魔力が溢れでいているのがわかる。
おそらく魔力か何かで反応すると勝手に扉が開くようになっているのだろうが、サムや友也では扉はうんともすんとも言わない。
なので、壁に指を突っ込んだ。が、びくともしない。おそらく魔力か呪術が力技で開けられないように対策されているようだ。
だが、サムは魔力を体内に循環させて、膂力を上げるとほぼ力技で隠し扉を無理やり抉じ開けた。
「クライド様!」
「うわっ、ちょ、ママ! 部屋に入るときにはノックしてよ! ――と、サムか」
「なに思春期の中学生みたいなこと言っているんですか! そんなことよりも、あんた何やってんだー!」
エロ本を読んでいた中学生みたいな反応をしたクライドだが、その姿は異質だった。
白いローブを頭から羽織り、紫色の禍々しい魔法陣の中で、魔力が立ち込める祭壇に向かってお祈りしている。
生贄などがいないことに安堵すると、サムはクライドの話を聞くこともせず、
「――スベテヲキリサクモノ」
祭壇と魔法陣を叩き斬った。
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
絹を割いたような悲鳴がクライドの喉から迸るが、知ったことではない。
ギュンターが搾り取られてしまうのはさておき、ビンビン因子とかいう訳のわからないものを未来で撒き散らされてもたまらない。
「これで未来は救われた、かな?」
「ありがとう、サムおじさん!」
「個人的には、あのクリーさんがギュンターくんを搾り取る未来は変わらないような気がしますけど、とりあえずクライド陛下の企みを阻止できただけでよしとしましょう」
両断された祭壇を茫然と眺めているクライドだが、なんでこんなことをしたのかは聞くまでもなくしょうもない理由だと思うので、放置して帰宅することにした。
ただ、祭壇復活などをさせないためにも祖母と、王妃たちにしっかり告げ口をしておいたので大丈夫だろう。
そして、
「どうもありがとうございました! これで未来は救われます!」
時間がなかったので些細なものとなってしまったが、ユーリィの歓迎パーティーをして、見送る時間がやってきた。
あまり未来のことは話したらいけないらしいのだが、みんな元気にやっているようでよかった。
例外は友也だけだが、些細な問題なので誰も気にしなかった。
「ユーリィくん」
「おじいちゃん」
「君が未来に戻り、僕が復活していたら伝えておいて欲しい――最期まで戦い抜きたまえ、と」
「あー、うん。でもね、おじいちゃんとおばあちゃんってかなりラブラブだよ?」
「まぁ! まぁまぁまぁ!」
ユーリィの言葉に目を見開くギュンターと、喜ぶクリーだが、サムたちにしてみたら「だよね」と言った感じだ。
なんだかんだといってギュンターとクリーの相性はいい。
本気でギュンターが拒絶しているなら、クリーだって路肩の石のような扱いを受けているはずだ。実際に、ギュンターの視界に入っても認識されない人間はいるのだから。
「……ふっ。どうやらユーリィくんは、違う世界線から来てしまったようだね」
冷や汗をだらだら流しながら、自分がなんとか受け入れられる言い訳を吐き出すギュンター。
にっこにこのクリーと、孫が生まれる前にひ孫が現れて驚きながらも喜んだイグナーツ夫妻からたくさんのお土産を渡されたユーリィは、登場したと同じくテラスに戻り空に魔法で合図を送った。
刹那、上空で魔力が渦巻、ユーリィの身を包む。
「また未来で会いましょう!」
手を振るユーリィにそれぞれが手を振る。
そして、光に包まれた彼女の姿は、消えた。
静寂が支配し、少しだけ寂しさを覚える。
「ま、これで未来が救われればみんな幸せだね」
「僕は全然幸せじゃないんですけどね! なんですか、深海に封印って!」
「きっと、最悪の魔王遠藤友也を復活させようとする邪教たちと、ユーリィたちが戦ったりするんだろうなぁ。しかし、復活したのはただのスケベ魔王だった!」
「そんなボス、ラノベだったら即打ち切りですよ!」
こうして、ギュンターとクリーの孫ユーリィが現れ、去っていった。
彼女の未来に幸あれ、とサムは祈るのだった。
――後日。
「最近、若干の衰えを感じてしまったのだ。いつもだったらフランシスとコーデリアを相手に二十発は余裕だったのだが、やはり年であるな。そんな折、クリーに誘われて少々。まあ、おいたをしてしまったせいで妻と母に怒られてしまったのである! はっはっはっはっ!」
「いや、一日二十発だった今までが異常なんじゃない!?」
やっぱりしょうもない行動理由のクライドだった。
〜〜あとがき〜〜
次回はま・と・もな閑話を入れてから本編へ進みます。
書籍2巻好評発売中です!
ぜひお手に取ってください!
追記:本日四回目のワクチン摂取をしました。毎度体調を崩すので、しばしコメントへのお返事はお休みさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い致します。
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