閑話「未来から孫が来ました」②




「……わたくしの孫……ですか。なるほど、通りであなたからギュンター様の匂いがするわけですね。信じましょう」

「……さすがお婆さま。相変わらず、意味がわからない」


 すぐに孫を受け入れてしまったクリーに、孫を名乗ったユーリィ自身が動揺を隠せないようだ。

 クリーはニコニコして、ユーリィに椅子を進めた。


「立ち話はなんですのでお座りくださいませ」

「あ、はい」

「未来から孫が会いに来てくださるなんて嬉しいですわ。わたくしのお腹にいるギュンター様との赤ちゃんが生まれ、次の世代に命を繋いでいるのですから、これほど幸せなことはありません」

「……本当に普段はいいおばあちゃんなのは同じなんだなぁ。おじいちゃんさえ絡まなければなぁ」


 感極まっているクリーに対し、ユーリィはなにか思うことがあるようだ。

 クリーが少し冷めてしまった紅茶をティーポットから、余分に用意してあったティーカップに注ぐと孫娘の前に置く。


「さ、どうぞ」

「どうも。……ふう。やっぱりおばあちゃんが入れるお茶はおいしいね」

「ふふふ、普段はおばあちゃんと呼んでくださっているのですね」

「あ」

「いいのですよ。十二歳でおばあちゃんと呼ばれるのは少々違和感がありますが、可愛い孫がサプライズで遊びに来てくださったのですから」

「ちが、あの、そうだ! ボクはおばあちゃんとお茶をしている場合じゃなかったんだ!」

「あら? では、どのようなご用事でしたの?」

「それは――」

「お待ちください!」


 事情を話そうとしたユーリィをクリーが鋭い声で止めた。


「な、なにかな、おばあちゃん?」

「そのお話は長くなりますか?」

「うん。大事な話だから」

「……では、その前にお教えください」

「なにを?」


 孫の話を遮ったクリーは、頬を赤くすると、年相応の少女らしいはにかみを浮かべて尋ねた。


「未来でもギュンター様とわたくしはラブラブですの?」

「……おじいちゃんは亡くなったよ」










「――――――――――――――あ?」








 ぶぁ、っとユーリィが汗を吹き出す。

 未来では、幼い頃から剣聖水樹・シャイトから素質ありと認められて剣技を叩き込まれた。その後、子竜四姉妹にもみくちゃにされて死にかけながら、ゾーイとジェーンによって実戦経験をこれでもかと教えられた。

 今ではそれなりに名の売れた剣士であるユーリィだが、目の前の少女の圧に怯え、膝を屈しそうになる。


「お、おばあちゃん」

「あらあら、失礼致しました。しかし、あまりからかってはいけませんよ。心臓が止まってしまうかと思いましたわ」


 圧を消してニコニコ微笑むクリーに、ユーリィは決して口にしながったが「心臓が止まりそうになったのはこっちなんだけど」と心の中で愚痴る。

 ごほん、と前置きし、若干怯えながらユーリィは今は幼い祖母に自らの目的を語った。


「ボクはおじいちゃんを救うために過去に来たんだ」

「……ギュンター様を?」

「おじいちゃんの死因はおばあちゃんだよ。隠居なされたくせに死ぬまでビンビンを掲げるクライド様と一緒に悪ノリしてエヴァンジェリン様を脅……説得して呪術に手を出して肉体の若さを手に入れたおばあちゃんは、いろいろ衰えてきたおじいちゃんに毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩! そりゃ干からびて死んじゃうさ! 最後は枯れ木のようだったよ! あのサムおじさんだって目を逸らしたんだから!」


 孫の悲痛な叫びに、しばらく沈黙を続けていたクリーだったが、


「――てへ?」


 誤魔化すように可愛く舌を出した。


「そんなので騙されないからね! ボクは、きっと今頃クライド様と作っている儀式の祭壇を破壊するために未来からやってきたんだ!」





 〜〜あとがき〜〜

 衝撃のギュンターと安定のクリーさんでした。


 9/30に書籍2巻が発売いたします!

 ……すごくシリアスで真面目なお話なんです。ぜひ買ってください!




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