66「住民と話します」①
「――ここがティサーク国か」
「正確に言うと、王宮の前です」
サムの眼前には、白に統一された城壁と王宮が見えた。
振り返ると、城下町が広がっているのだが、人の姿は見えない。
気配はあるので、無人というわけではないが、なにか起きているのを民たちも気づいているのかもしれない。
「つーか、変態魔王! なんで王宮の中に転移しなかったんだよ! どうせ玉座かなんかでふんぞり返っているに決まってんだろ!」
「オーウェンの場所がわからなかったわけではありません。――弾かれたんです」
「は?」
「僕の転移が王宮の内側に弾かれてしまったので、こうして外側にいるんです」
「……お前の転移が失敗したって初めて聞いたぞ」
「いえ、初めてではないんですが、オーウェン程度が僕の転移を弾けるとは……これは本当にあり得ないような力を手にしているかもしれませんね」
友也の転移が弾かれたのは興味深かった。
オーウェンがなにかしたのか、それとも他の誰かの仕業か。
もっとも、友也がくることは想定内だったはずなので、対処しているのは当たり前だ。
むしろ、何もしていなかったほうがどうかしている。
「……もしかして、変態だから拒否られたんじゃねーの?」
「アーリーくん! 言っていいことと悪いことがありますよ! そんな理由で転移が弾かれたことはさすがにありませんから!」
アーリーの呟きを、大声で否定するともやだが、サムを含めて誰もが「ありえるかも」と思ったに違いない。
とはいえ、転移で王宮の前にいることは間違いない。ならば、脚を使ってオーウェンの元まで行けばいいだけの話だ。
サムたちのすべきことはかわらない。
「私のブレスで更地にしてやろうか?」
「でーすーかーらー! 関係ない人がいたらどうするんですか!」
「そんなの知るか!」
友也とエヴァンジェリンが額をぶつけて口喧嘩している最中、サムは改めて背後を振り返った。
寂しい国だと思う。
オーウェンのせいか、それとも王のせいかは不明だが、活気がない。
人の姿がないのもそうだが、スカイ王国城下町と違って全体的にくたびれていた。
道路も、店も、住まいも。唯一、まともなのは貴族の屋敷と思われる建物だが、それだって手入れはあまりされていない。
「ひでぇ、国だろ?」
「アーリー」
サムに声をかけたのはアーリーだった。
彼女はつまらなそうな顔をして、ティサーク国を眺める。
「俺たちがくる前からこんなもんだ。貴族どもがやりたい放題、平民はビビって過ごす。ときどき思い出したみたいに反乱するんだけど、すぐに鎮圧だ。で、一族郎党酷い目に遭う。最近のレジスタンスは気合が入っているって聞いていたんだが、実際はどうだか」
「嫌な国だな」
「別に、この国だけの話じゃねーだろ。スカイ王国の方が異常なんだよ」
「だね。というか、スカイ王国だっていい貴族ばっかりじゃないさ。まあ、少々、少し、変態貴族どもがフランクなせいでスカイ王国は違って見えるだろうけど、そう大差ないよ」
「いや、大有りだろ! 国王が国民にビンビン言われているのは異常だからな!」
「……そんなこともありましたねぇ」
アーリーは意外とスカイ王国について知っているようだ。
しかし、実際はサムが言ったように若干名の変態と、隠れ変態どもが目立つだけで、貴族にだって民を蔑ろにする奴らはいる。
サムが拝領した領地も、重税などやりたい放題だったと聞いている。
ウルと一緒に各地を転々としていたときも、いい貴族がいれば悪い貴族もいる。
貴族だから、というよりもあくまでも人間性の違いなことは承知しているが、やはり権力を持っていたり、代々貴族だったり、もしくは急に成り上がったりすると民を蔑ろにするようだ。
きっと、民がいてこその自分たちであることを知らないのだろう。それは、あまりにも悲しいことだ。
「この国は元上司をぶっ殺したって変わらねえかもよ。他の貴族が王になって、また民を苦しめるんだ」
「それはこの国の人たちの問題だよ。俺たちは神様じゃない。喧嘩が強いだけだ。だけどさ、きっとなにかきっかけがあれば、動く人は動くと思うよ」
「ふん。人間はだから怖いんだよ。普段、脅威でもなんでもねーくせに、いきなりあり得ない行動をしてくる。ま、そんな気概のある奴がこの国にいるとは思わねーけど。もし、いるのなら、いいことだ」
もしかすると、手出しこそしないが、アーリーはこの国を憂いているのかもしれない。
サムとしても、民が笑顔で生きることのできる国に変化してほしいと願う。
「さて、そろそろ。――ん? なんか、数人こっちにくるね。さっきからずっとこっちを伺っていた奴らだけど」
転移した瞬間から視線に気づいていたサムだが、害がないので放置していた。
おそらく、レジスタンスが王宮を見張っていたところに、サムたちが転移してきたせいだと思われる。
武装していない一般人のようだが、「若干できる」ようだ。
「なあ、あんたたち……王宮には近づかない方がいいぜ」
三十半ばの無精髭を生やした男が、サムたちを伺うように声をかけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます