67「住民と話します」②
「親切にありがとう。だけど、俺たちは王宮に用があるんだ。親切心で言っておくけど、しばらく近づかない方がいいよ」
「王宮に用だと!? ――くそっ、まさか」
サムの言葉を悪い意味に受け取って身構えた男性たち。
魔力から、男性は魔法使いだ。他にも女性が二人、男性が二人、魔法使いと思われるが、袖や靴下にナイフを仕込んでいるので一概にそうとは言えない。
「待って待って、勘違いしないでよ。俺たちは、別にあんたたちにどうこうするつもりはないんだ。むしろ、どうこうしたい奴は王宮にいるんだ」
「どういうことだ? 待て、ここじゃ人目につく。場所を移そう」
「悪いが、あんたたちとのんびり話すつもりはない」
サムは男性たちから背を向けた。
「お、おい! 待ってくれ! お前たちにどんな目的があるか知らないが、勝手なことをされたら困るんだ!」
男性はサムの肩をつかもうと手を伸ばすが、ボーウッドが遮った。
「兄貴の邪魔をするな」
「――っ、魔族!」
「気づかなかったのか? 俺はずっと一緒にいたぞ」
「し、知るか! やはり、マードクの野郎の関係者か!」
「黙れ。誇り高き獅子族を、民を虐げることしかできない俗物と同列に扱うな」
牙を剥くボーウッドだが、サムが止めた。
「ボーウッド、構わなくていいよ。それよりも、早くすべきことをして帰ろう。この国は、なんか嫌だ」
「へい、兄貴!」
言動からしておそらくレジスタンスの人間だ。
しかし、サムは関わるつもりはない。
レジスタンスを率いて戦うつもりもないし、敵はティサーク国王ではなく元魔王オーウェンだ。
彼らから伝わる魔力は、ティサーク国宮廷魔法使い筆頭アーグネスにかなり劣る。
立ち上がろうとしていることは理解できるが、ならば、全てが片付いた後に立ち上がってほしい。
今はただ、巻き込みたくない。
「サムも気付いているでしょうがレジスタンスです。きっと潜伏中なので僕たちに勝手に動かれたくないようですが」
「知るか、そんなこと。こっちはもうオーウェンに喧嘩を売られたんだ。早く斬り捨てるだけだよ」
「それでいいんです。彼らでは、巻き込まれて死んでしまうでしょう。でも、いいことです。立ち上がろうとする気概がある人間がいるのなら、この国も少しはましになるでしょう」
「そうあってほしいな」
「そのためにも、僕たちでオーウェンを倒し、背後を吐かせ、彼らのやりやすいようにしておいてあげましょう」
意外だった。
人と最低限の関わりしかない友也が、レジスタンスの人間を思いやることを言ったから、ついサムは軽く目を見開いてしまう。
「なんですか、その目は。僕だって、思うことはあります。人間が嫌いなだけで、苦しめと思ってはいませんよ」
「失礼しました」
「もういいです。いきましょう」
「ああ」
サムたちは、見張りも門番もいない門を潜り王宮の敷地に足を踏み入れる。
背後で叫ぶ声がしたが、振り返らなかった。
「よし、とりあえず人はいないようだな」
「そのようですね。きっと自分と配下だけで迎え打てると思っているんでしょう。ただ、不思議なことに、王宮内におかしな魔力が流れていてオーウェンの居場所をざっくりとしか把握できませんね。強さもいまいちぼやけています」
「転移を弾いたこととなにか関係があるのかな?」
「それも含めて、オーウェンに聞きましょう」
友也の言葉に頷き、サムは足を進める。
不気味なほど、妨害がなかった。
兵士はもちろん、魔族のひとりも出てこない。
ぼんやりと感じる魔力も動いていない。
(ったく、堂々としてるなら結界で阻むなよ)
地味な嫌がらせにサムは辟易しながら、進んでいく。
そして、オーウェンがいるであろう玉座の間に辿り着き、扉を蹴破った。
「こんにちは! 新人魔王サミュエル・シャイトです!」
〜〜あとがき〜〜
書籍2巻が9/30発売です!
ご予約始まっておりますので、何卒よろしくお願い致します!
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