20「まだまだ強くなれそうです」
「――変な夢を見たはずだけど、よく覚えていないや」
ベッドの上で目を覚ましたサムは、うーん、と背を伸ばし、すぐ傍にフランがいることに気づいた。
「おはようございます、サム様。といっても、もう夜なのですが」
微笑んだステラが、白く細い手を伸ばしてサムの額に当てる。
「お熱はないようですね。あれだけ出血をしていたので不安でしたが、超速再生というのはすごいのですね」
「超速再生? ああ、ダグラスと喧嘩した時に使ったのを見ていましたよね」
「ええ、とても心配しましたし、ハラハラしました」
「心配かけてすみません」
面倒ごとは嫌いなサムであったが、ダグラスのような気持ちのいい性格の男から「喧嘩しようぜ」と誘われたら断れないし、断りたくなかった。
強くなることは好きだし、強さを求め続けるのがポリシーだ。
先輩魔王の胸を借りることができるチャンスもそうそうないだろう。
結果、反省すべき点は結構あった。
まず、防御面だ。
もともと攻撃を食らう前に全力で攻撃をするという、攻撃は最大の防御の精神のため、今まであまりダメージを負うことは少なかった。
ウルやリーゼにボコボコにされたことは数え切れないが、それもあくまで訓練の範疇だ。命の奪い合いならば、また違う結果があるだろう。
魔王に至る前は、ダメージは回避し、怪我をしても回復魔法を使うことで凌いできた。魔王に至ってからは、超速再生という回復魔法いらずの特性を手に入れた。
引き出しが多かったサムは、つまるところ打たれ弱いのだ。
魔族や魔王という人外の特殊能力を持つ者たちと戦うには、少々不安が残ることがよくわかった。
続いて、攻撃が極端であることだ。
未熟であるせいなのだろうが、攻撃力が高すぎる。
最初から殺す、か、手加減をする、のどちらかが多く、絶妙なバランスがつけにくい。
魔王に至ったことで、だいぶ力を使いこなせるようになったと自負していたが、同じ魔王と戦ってみると、まだまだ荒く、甘い。
最後に、経験不足だ。
防御、攻撃以上に経験が圧倒的に足りていない。
前世を含めると四十年の時間を生きているとはいえ、数百年、千年を生きる魔族に比べると経験では負けている。
人間相手では、その経験の差を力のゴリ押しできたのだが、魔族になると、特に準魔王や魔王になると難しい。
また成長期であることから体力も少なめだ。
魔王に至ったものの今後身体は成長していくと友也から聞いている。自分がベストだと思った時に止まるようだ。
成長面に関わるのだが、もう少し手足のリーチが欲しい。
――というか、身長が欲しい。
百五十センチをちょっと超えたくらいのサムとしては、できればあと二十センチ、よくをいえば三十センチほしいのだ。
そんなわけで、サムはこれからも強くなるためにすべきことはたくさんある。
実に喜ばしいことだ。
魔王になって終わり、ではない。強さが停滞してしまうわけでもない。
まだまだ強くなれるのだ。
――いずれ最強の魔王に至ろう。
新たな目的を掲げたサムが、ベッドから起き上がろうとすると、
「あ」
ステラが手を伸ばし、止めようとした。
しかし、サムのほうが動きが早く、シーツをめくってしまう。
そしてなぜか露出する股間。
「なんでぇえええええええええええええええええ!?」
サミュエル・シャイト、十四歳。
職業、スカイ王国宮廷魔法使い兼魔王。
あと、フルチンだった。
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