8「面談です」②
(――ギュンターや姉のおかげで、些細なことには動じないと思っていたけど、さすがにこの展開に驚きを禁じ得ないわ)
サムの父親が亡き王弟ロイグ・アイル・スカイであることは知っているが、まさかその父親の元婚約者がサムと結婚すると言いだすとは思いもしなかった。
イーディス・ジュラは建国からスカイ王国を支えてきたジュラ公爵家の当主であり、彼女の言葉は陛下も無視できない重鎮だ。
貴族派貴族の筆頭でもあったが、実は、内部で暴走しないように静止力として機能していたと聞いたときには驚きもした。
そんなイーディスが、どう巡り巡ったら娘と一緒にサムに嫁ぐことを決めたのか、正直リーゼの理解の範疇を超えている。
(どういった経緯でサムと結婚しようと思ったのか聞いてもいいものかしら?)
リーゼとしては、サムを愛し、支えてくれる人ならば反対理由はないのだが、イーディスに関しては好奇心が大きかった。
サムの父との関係の詳細まで詳しいわけではないが、元婚約者の息子に対して、どういう感情を抱いているのか聞いてみたいのだ。
元婚約者の責任を取らせようという考えなどの、マイナスな思考は持っていないのはわかるし、クライドからも前向きに検討してあげてほしいといわれているので問題はないだろう。
きっとサムはびっくりし、戸惑うだろうが、いろいろ力を抱えてしまった彼には支える人が多い方がいい。
魔王に至ったサムを置いて、自分たちは寿命という逃れられない縛りから亡くなる日が来るだろう。
早々に亡くなるつもりはないが、事故、病気、怪我、どのようなことで命を失うのかわからない。
あれだけ元気だった、長女ウルリーケが若くして亡くなったのだから、リーゼの不安は尽きない。
それゆえに、サムのために子供を、孫を、子孫と絆をつなげていくことで彼に寂しい思いをさせないようにすると決めていた。
「……リーゼロッテ殿。私は、陛下ほどあなたのことは知らないけど、考えていることはわかるわ。サムのことを一番に考えているのよね?」
「ええ」
「なら安心しなさい。私は、サムを心から愛しているし、裏切ることもしない。子供を産み、慈しみ、あなたたちと素敵な家族になることを約束するわ」
「……ジュラ公爵様」
「イーディスと呼んでちょうだい。サミュエルのことだけじゃないわ。リーゼロッテ殿とあなたたちを家族として心から支えるわ。魔王となったサミュエルのことで悩みはあるでしょうが、一緒に考えましょう」
「イーディス様」
「それに無理に妻にならなくてもいいの。サムも年上すぎると困惑するでしょうし、変な噂がたっても困るからね。でも、子供だけは産みたいわね。もちろん、見返りとして今後くだらない縁談が舞い込まないように私の全ての力を使って、排除すると約束するわ」
とても力強い言葉だった。
実を言うと、サムがジュラ公爵を気にかけているのはわかっていた。
父親の婚約者だったということもあるだろうが、はっきり言おう。サムの好みの女性なのだ。
サムは自覚がないようだが、年上のできる女性が好きな傾向にある。
ウルもそうだったし、フランもそうだ。
もちろん、好みと愛情はまた違うものだが、ジュラ公爵がサムに本気だとわかれば、その気になる可能性が大きいと考えている。
サムがその気にならなければ、それは縁がなかったと諦めてもらうしかない。
「私はあくまでもサムのために面談はしていますが、決定権は彼にあります」
「わかっているわ。口説くのが楽しみよ」
不敵な笑みを浮かべるイーディス・ジュラを見て、リーゼは確信した。
間違いなく彼女はサムを想っている。
もしサムと結ばれることがあれば、よき妻となり、よき相談役にもなるだろう。
(……それに、親娘丼は男性の夢のようだし、きっとサムもそうでしょう。あの子ったら、妊婦のお腹も好きみたいだし、なんだかんだ言ってエッチだものね)
もしこの場にサムがいて、リーゼの心の中を読めていたら間違いなく誤解です、と言っただろう。
ただ、否定できない材料もあるのだが。
「それで、あの、ひとつお聞きしたいのですが」
「なんでも聞いて?」
「なぜ、サムなのですか?」
せっかくなのでこの勢いで聞いてしまおうとリーゼが尋ねると、ジュラ公爵は「わかっているでしょう?」と言いたげな表情をしてはっきり口にした。
「――運命よ!」
「……あー」
イーディス・ジュラはギュンター・イグナーツに近いものがあると確信した。
苦笑し、でもわかります、とリーゼが言葉を返した時だった。
扉をノックする音が聞こえる。
中に入るよう促すと、メイドが慌てた様子で告げた。
「魔王様がいらっしゃいました!」
「どちら魔王様?」
「知らない魔王様です!」
メイドの報告に、リーゼとイーディスが顔を見合わせた。
「まさか」
「新しい魔王様のご登場のようね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます