48「ダニエルズ兄妹のご挨拶です」③




 戸惑い気味のメラニーに気づかず、ダニエルズ兄妹は続けた。


「私は、サムお兄ちゃんの弟に生まれてきたことを誇りに思っています。サムお兄ちゃんの家族なら、私たちにとっても大事な家族! ぜひ、ママ上とお呼びするお許しをいただきたい!」

「いだたきたい!」

「あの、サムのご兄弟とは?」


 メラニーが疑問になるのも無理はないだろう。

 産んだ覚えのない兄妹が急に現れても困る。

 もしかしたら、ロイグが別のところで作った子供なのかもしれないとも考えたが、そんな話は聞いていなかった。


「サムお兄ちゃんは、私たちのお兄ちゃんになるべくこの世に遣わされた存在だ。血の繋がりこそないが、魂では兄妹であり、家族なのです!」

「なのです!」

「申し訳ありませんが、少し混乱しています。つまり、お二方はサムの義兄妹ということでよろしいのでしょうか?」


 混乱するメラニーに変わって、スティーブンが尋ねると、ふたりは少しだけ困った顔をした。


「義兄妹といえば義兄弟だが、魂の兄妹なのでもっと濃い存在なのだ」

「なのだ!」


 ますます意味がわからなくなったメラニーとスティーブン。

 すると、周囲からちらほらと声がする。

 すべてが聞こえたわけではないが、「来賓とも親しいなんて」「羨ましいこと」という複数の声が届いた。


「ふむ。少し雑音が鬱陶しいな」

「ふん!」


 ダニエルズ兄妹の耳にも周囲の声は届いていたのだろう、鋭い視線を一周させると、レームは指を鳴らした。

 刹那、メラニーたちを静寂が包む。


「ママ上と私たちの記念すべき初対面に余計な雑音はいらん。では、仕切り直しを」

「仕切り直しを!」


 メラニーとスティーブン、クラリスは、周囲の声がすべて消えたことに驚愕を隠せない。

 どのような仕組みか魔術か不明だが、指を一度鳴らしただけでこんなことができる存在であるふたりが、わざわざ挨拶するために足を運んできたのが不思議でならなかった。


「では、改めて。――ママ上!」

「ママ上!」

「あ、あの!」


 メラニーの背後から、覗き込むように声を上げたのはクラリスだった。


「――なにかな、愛らしいお嬢さん」

「可愛い子だね」

「レーム様とティナ様は、お兄ちゃんの兄妹なの?」

「こら、クラリス! 失礼な口を」


 幼いゆえか、それともサムの名を聞いたから、子供らしく疑問をそのまま訪ねてしまったクラリスをメラニーが嗜めようとするが、レームが手を振り止めた。


「お気になさらず、ママ上。お嬢さん、私たちはサムお兄ちゃんの弟なのだよ」

「妹なのだ!」

「えっと、えっとね、じゃあ、私のお兄ちゃんとお姉ちゃんになるの?」


 あどけなく期待するような大きな瞳に見つめられた瞬間、レームとティナの心臓はクラリスに撃ち抜かれたと言っても過言ではなかった。

 心臓が早鐘のように動いている。

 顔を青くしたメラニーとスティーブンがなにか言うよりも早く、兄妹はクラリスと視線を合わせるためにしゃがんだ。


「もちろんだとも! このレーム・ダニエルズ!」

「ティナ・ダニエルズ!」

「生涯をかけて、君のお兄ちゃんとなろう!」

「お姉ちゃんとなろう!」

「え? 本当? やったー! お兄ちゃんとお姉ちゃんができたー!」


 にぱーっ、と可愛らしい笑顔を浮かべるクラリスに頬を緩めてだらしない顔をするダニエルズ兄妹。

 感極まって突進してきたクラリスをレームが抱き抱えると、ティナと頷き合った。


「このときめきを胸に誓おう」

「誓おう」

「クラリス・ティーリングは俺たちの可愛い妹であり、生涯守り続けるのだと!」

「守りたい、妹の笑顔!」


 未だ困惑を隠せないメラニーとスティーブンをよそに、兄妹はクラリスを妹としてしっかり認識してしまった。


「そこの給仕! この国で一番の酒を持ってこい! 家族で乾杯だ!」

「乾杯だ!」

「い、いえ、あの、クラリスはまだお酒は」

「おっと失礼した。給仕! この国で一番のミルクだ!」

「浴びられるほど持ってこい! 秒でな!」


 給仕に無茶振りをするダニエルズ兄妹は、こうしてサムのいないところでちゃっかりティーリング一家にご挨拶を完了したのだった。

 メラニーとスティーブンも、なにがなんだかわからないまま、兄弟に促されるまま乾杯するのだった。




 ◆



 しばらくして談笑していたダニエルズ兄弟が、びくんっ、と跳ね上がると、


「サムお兄ちゃんがレプシー兄さんの力を使った!」

「間違いない!」


 と感動を始め、


「え? まだお兄様がいるのですか?」


 ティーリング一家を不安にさせるのはまた別のお話。

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