49「魔王たちは気付いたそうです」
魔王遠藤友也は、引きずられていくギュンター・イグナーツをハンカチをひらひら振りながら見送ると、
(僕は童貞だけど、彼を見ているとなーんにも羨ましくないのは何故でしょうか)
そんな感想を抱きながら、「さて」と周囲に視線を送った。
「みんな気付いているでしょうけど――って、距離が遠い! あの、ちょっと秘密のお話をしたいのですが、なぜそんな離れているんでしょうか?」
「ギュンター・イグナーツの結界が解かれてしまうことになったら、私たちに被害が出るじゃないか」
「綺麗な身体で嫁ぎたいっすから、変態に触れられるのはノーサンキューでお願いしまっす!」
仮にも魔王に対して、ばっさり言い切るゾーイとカルに友也は頬を引きつらせた。
ちらり、と同僚のエヴァンジェリンに視線を向ける。
「こっちみんな」
予想通りの対応の悪さに、友也は泣きたくなった。
「気づけば、リーゼ殿たちもいないですし……わかっていても、警戒されているなぁ」
「当たり前だろ! だけど、なんつーか、嫌な意味で警戒されているわけじゃねえんだから、別にいいじゃん」
エヴァンジェリンの言葉に、確かに、と友也は頷いた。
友也の体質はなかなか受け入れられるものではない。
前世でもそうだったし、この世界でもそうだ。
しかし、サムたちは、警戒しているのだが、離れていかない。
ラッキースケベを最愛の人たちから遠ざけようとするが、それは普通の反応である。が、それだけだ。
文句は言うし、変態扱いされるが、忌み嫌われ逃げられたり、追い払われたりすることはない。
今だって、リーゼたちが離れた場所にいるも、苦笑してごめんなさい、と言っているのがわかる。
変態耐性があるおかげなのか、それともスカイ王国の人間がこうなのかはわからないが、初めて心地いいと思えた。
「そうですね。そう言うことにしておきましょう。幸いと言うべきか、聞かれたくない人たちが離れてくれたので丁度よかったです」
友也と距離を取りつつも、残っている面々はエヴァンジェリン、ゾーイ、カル、竜王だけ。青牙と青樹はリーゼたちと一緒にいる。
だが、これから話そうとしていることを聞かせたくなかったので丁度よかった。
「サムも気付いていないようですが……いえ、正直言うと、自分でも信じられないのですが、クリー・イグナーツ殿に関してです」
「あー、やはり気付いたか」
「やはり、エヴァンジェリンも気付いていたようですね」
「ああ、クリーはかなりやばい変態だぜ!」
「そっちじゃないです! 確かに、恐ろしさを感じますが、そうではなくてですね!」
「冗談だよ。つーか、ゾーイなんかとっくに気付いていただろ?」
エヴァンジェリンに尋ねられ、ゾーイは神妙に頷いた。
「認めたくないので気付かなかったふりをしていたのだが、お前たちが気付いたのなら、残念ながら、とても残念ながらそういうことなのだろう」
「うわー、めちゃくちゃ認めたくないのが丸わかりっすねー」
「当たり前だ! あれを認められるか! 認めてしまったら、私が、私が……」
「あんまり追い詰めるとゾーイさんが壊れちゃうんでやめとくっす」
なにやらクリーに関してゾーイには認めたくない何かがあるらしい。
エヴァンジェリン、ゾーイ、カルが気付いているため、友也も自分の感覚が正しかったことを確信した。
「つまり、クリー・イグナーツ殿は――あ」
友也が何かに気づき、言葉を止める。
「ん? どうした、変態?」
「困ったことになりました」
「あん?」
「まったく誰が焚きつけたのか……一番面倒くさい魔王の御到着です」
友也が渋い顔をした刹那、王宮に轟音が響き、揺れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます