29「再会です」①





「ギュンター様ったら、最愛の妻を放ってひとりで会場入りなさるなんて酷いですわ! ……でも、気持ちもわからなくはないのです。お恥ずかしかったのですよね? 先ほど、あんなにわたくしと致してしまって、あれほどまで求められたのは初めてだったので動揺してしまいましたが、それ以上に感動致しましたわ!」

「……違う、そうではない、求めたのではなく、倒そうと」

「いや、することちゃんとしまくってんだから違うはねーだろ」

「――がふっ」


 十二歳とは思えぬ艶やかな顔をして舌舐めずりをするクリーに、ギュンターが息も絶え絶えになりつつも反論しようとするが、エヴァンジェリンがばっさりと切り捨てた。

 吐血――と見せかけてワインを吐き出したギュンターに、サムは「まだ余裕あるな、こいつ」と思う。


(それにしても――三十過ぎの女性とは思えないほど、若々しいな。あと、クリーの母親を見て、もじもじしている青牙にどう反応すれば良いのかわからない)


 弾丸のように飛んできたクリーのあとから、娘とそっくりな可愛らしい面影を残した女性こそ、シフォン・ドイク男爵夫人だった。

 サムの記憶だと、クリーの他にも子供がいる三十代後半の女性だったはずだが、ぱっと見た感じ二十代半ばか後半くらいだ。

 正直、クリーの歳の離れた姉ですと紹介された方が受け入れやすい。

 サムがそんなことを思っていると、シフォンがサムたちにお辞儀をした。


「お初にお目にかかります、わたくしクリーの母のシフォン・ドイクと申します」

「こちらこそ、初めまして。サミュエル・シャイトです」

「エヴァンジェリンだ」

「遠藤友也です。こちらが従者のケイティとウェンディです」

「お初にお目にかかる……竜王炎樹だ」

「娘の青樹よ」

「息子の青牙、独身です!」

「……なーんで、独身って最後に付け加えたんすかね、あ、私はカル・イーラっす。サムさんの奥さんなんで今後ともよろしくっす!」


 シフォンに対して、フレンドリーな規格外たちが挨拶を返していく。

 一部、おかしいものもあったが、触れないでおこうと思う。


「ご丁寧にどうもありがとうございます。特に、シャイト様。娘には奥様方とご一緒にとてもよくしていただいているようで、母親として心から御礼申し上げます。もっと早くにご挨拶に向かうべきでしたが、お許しください」

「いえいえ、そんな。クリーには、そのいろいろ助けられています。リーゼたちも妹同然に思っていますので、気にしないでください」

「……お気遣いありがとうございます。クリーもシャイト様のことを兄のように慕っているとお聞きしています。ご面倒をおかけするかもしれませんが、今後ともよろしくお願い致します」


 深々とお辞儀をするシフォンにつられて、サムも同じように頭を下げた。

 クリーがリーゼたちを姉同然に慕っていることは知っていたが、まさか自分まで兄のように思われていたとは思わず、少し気恥ずかしさを覚える。

 サムとしては、ギュンターへの防波堤として大いに活躍してくれているクリーに感謝しかしていないので、こちらこそ、ぜひ、という感じだ。


「……クリー・イグナーツといえばスカイ王国で一番ぶっ壊れた少女と聞いていましたけど、母親はまともそうっすね」

「しっ。だからそういうこと言わないの! 小声でも聞こえたら困るでしょうが!」


 カルの軽口にサムが注意する。

 確かに、クリーの母親が外見は若すぎても内面が普通であることは驚いたのだが、イグナーツ公爵だって息子が変態なのにちゃんとしたお方だ。

 子供が少々変だからといって、親まで変だと思うのは偏見だろう。


「あ、あの!」


 すると、青牙が顔を真っ赤にしてシフォンに一歩近づいて声をかけた。

 シフォンは懐かしそうな顔をする。


「先ほどはすぐに立ち去られてしまったので、確信はありませんでしたが……やはり、あなただったのですね」

「お、覚えていてくださったのですか?」

「もちろんです。あなたは当時のままですもの。わたくしはすっかりおばさんになってしまいましたわ」

「そんなことはありません! あなたはかつてご息女のように可憐でしたが、今はすっかりお美しくなった。こうしてお元気な姿を見ることができて――本当によかった」


 きっと青牙の脳裏にはかつての思い出が浮かんでいるのだろう、今にも感極まって泣きそうだった。

 そんな兄の姿を見て、青樹とエヴァンジェリンは顔を見合わせて呟いた。


「……誰これ?」




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