30「再会です」②




 妹たちの動揺を他所に、青牙はシフォンに続けた。


「あなたとの再会を夢見ていたが、里の長老たちのせいでそれも叶わなかった。約束を守れなかったことを心から謝罪したい」

「なにか事情があったのだと思っていましたわ。お辛い顔をしないでください。わたくしは気にしていませんから、あなたもどうかお気になさらないで」

「感謝する。――長老たちは里に戻ったら殺そう」


 感謝の言葉とともに、ぼそっ、と物騒なことを言った青牙に、サムは突っ込みを入れようとしてやめた。

 エヴァンジェリンの扱いや、青牙と青樹の教育を見る限り、老害のようだ。そんな奴らが仕返しされようと興味がない。


「その、シフォン・ドイク殿」

「どうぞシフォンとお呼びください。かつて名前を名乗り合うことさえできませんでしたが、わたくしたちお友達でしょう」

「――っ、そうだ、そうだな! ならば私のことも青牙と呼んで欲しい」

「ええ、青牙」


 名を呼ばれた青牙が満面の笑みになる。

 彼はそのまま、


「と、ところでシフォン、そのあとで――むぐっ」


 明らかにデートに誘おうとしたので、サムが全力で背後に回り青牙の口を手を押さえた。


(あ、あぶねぇ……この竜は何考えているんだか……)


 魔王として至ったサムが全力を出さなければならないほど、青牙の発言は危険だった。


「むぐむぐむがぁあ」


 何をする、と抗議するような目で訴えてくる青牙に、サムは大きくため息を吐いて、こっそり告げた。


「……あのね、相手は子供がいるんだよ。つまり旦那さんがいるの。そんな人をデートにさそっちゃいろいろまずいでしょう」


 ようやくここで相手が既婚者であることを理解した青牙が「……あ」という顔をした。


「手を離すけど、余計なことはいわないようにね。いいね?」


 頷くのを確認して、サムが手を離す。


「……どうなさったの?」

「いや、なに失礼した。なんでもない。よろしければ、いつかご家族をご紹介して欲しい」

「まあまあ! そうね、旦那様と子供たちを紹介するわね。そうえいば……青牙は独身とおっしゃったわよね?」

「え? ああ、まだ伴侶はいない」


 なぜそんなことをシフォンが青牙に聞いたのか、と首を傾げる一同。

 サムは、嫌な予感というか、面倒なことになりそうな予感がした。


「よろしかったら、わたくしの娘と会ってみない? とても良い子なの。青牙のような素敵な方ならきっと――」

「も、申し訳ありません! ちょっと、お待ちを! 邪魔をするつもりはないのですが、そのお話はまたの機会でお願いします! 青牙も今日からスカイ王国に暮らすということで、いろいろ準備がありますので、せめて生活が落ち着いてからということでいかがでしょうか?」


(この人何考えているの!? いや、昔の友人に娘を、って感覚なんだろうけど、完全に異性として見られていないよね。これじゃあ、青牙ががっかり……あれ、なんでちょっと嬉しそうにしているの? お前、あれか、娘でもいいのか!? い、いや、違うか、娘に紹介したいほど素敵な人だと思われているのが嬉しいで良いんだよな、な!?)


 パーティー会場でなければ、大きな声でツッコミをしたいサムだったが、心の中で叫ぶだけにしておく。

 そんなサムに対し、エヴァンジェリンと青樹は「……え? 素敵な方って、誰が?」と先ほどから、シフォンの青牙への認識と自分たちの認識が噛み合わずに困惑していた。

 炎樹は我関せずといった具合で、ワインを飲んでいるし、友也も苦笑気味だ。カルに至っては、いつの間にかいなくなっており、離れたテーブルでお肉をこれでもかとさらによそっている。


(クリーとは違う意味でなんかすごい人だ。――ん?)


 心の中で息を切らせていると、背後から、ぬっと影が現れた。

 振り返るまでもなくわかった。

 こんな巨体を持つのは、この会場内でひとりしかいない。


「あーら、シフォンちゃん。残念だけど、青牙ちゃんはお姉さんの可愛い娘のお婿さんになるのよぉ」


 魔法少女ドミニク・キャサリン・ジョンストンが、再び現れた。

 彼女を見た青牙が、先ほど連れて行かれたことを思い出したのか「――ぴっ」と小鳥のような声を出す。


「他国の魔法少女と聞いていたから、もしや、と思っていたけれど、やはりシフォンちゃんだったのねぇ」

「ご無沙汰しております、ジョンストン宮廷魔法使い様」

「やーねー、魔法少女と言ってちょうだい。同じ魔法少女じゃない」


 知り合いだったのか、と新たな衝撃がサムたちを襲う。

 それ以上に驚いたのが、シフォンがキャサリン同様に魔法少女だと言うことだ。

 サムは絶句し、エヴァンジェリンたちも動揺を隠しきれない。


(ドイク男爵夫人が魔法少女って……さすがクリーの母親だ、と納得すべきか、おっさんが魔法少女ではない分、安心すべきか悩む)


 キャサリンの同類なのか、とシフォンの反応を見守っていると、彼女はにこやかな表情を浮かべたままはっきりと言った。


「いいえ、わたくしとジョンストン宮廷魔法使い様は同じ魔法少女ではありません。むしろ、魔法少女ではありません。ひとりの魔法少女として、あなたを魔法少女とは認められません」


(この人まともだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)




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