14「魔法少女について語ります」③
「――やめよ」
「はっ」
「はい」
今にも竜対竜の喧嘩が始まりそうな仲、竜王の淡々とした声が響き、青牙と青樹は大人しくなった。
サムは大きく嘆息した。
さすがに王宮内で竜が暴れたら大惨事だ。
せっかく友好的に彼女たちを招いたのに、すべて御破産になるところだった。
「あー、よかった。止めてくれてありがとうございます」
「構わぬ。私も青牙と青樹がこの場で暴れることをよしとしない」
だが、と炎樹は不思議そうに子供たちに尋ねた。
「お前たちの趣味嗜好をとやかくいうつもりはない。しかし、気になったのが、いつ人間の文化を知ったのだ?」
そのもっともな疑問に、サムたちの視線が竜の兄妹に向かう。
ごまかそうとしていた二人だったが、無理だと悟ったようで、観念したように声を絞り出した。
「じ、実は、長老たちの目を盗んでちょいちょい遊びに」
「その通りです」
「おまっ、人のこといえねーだろ! 私に散々文句を言っていたくせに!」
「お前ほど自由ではないわ!」
青牙と青樹が、里を抜け出していた事実にエヴァンジェリンが噛みつく。
とはいえ、青牙のいう通り、エヴァンジェリンほどの自由はなかったのは間違いないだろう。
「それにしてもさ、魔法少女なんてどこで知ったんだ? もしかしてスカイ王国に来た、とか?」
「こんな恐ろしい国に近づいたことはない! 別の国だ。気分転換に里を抜け出し、小さな集落を散策した時のことだ。傷ついた少女がおり、気まぐれに手当てをしてやると、彼女は魔法少女という存在だと教えてくれた。その日、彼女と行動したが、私の心にしかと魔法少女が刻まれたのだ」
「――スカイ王国以外にも魔法少女がいたのねん」
青牙の話に興味を持ったのは、いうまでもなくキャサリンだった。
同じ、かどうかは別として、魔法少女として他国に魔法少女がいた事実に好奇心をくすぐられたのは間違いない。
「青牙ちゃん、よろければ私にその魔法少女についていろいろ教えてくださらないかしら?」
「誰が貴様など――いえ、その、やめてください。近いです。あ、あの、なぜ腕を掴むのでしょうか? 俺は、いえ、僕はまだ食事をしたいと言いますか、せっかくの歓迎会を楽しみたいと言いますか」
「歓迎会なら後日我が家で開いてあげるわ。だから、ね、お姉さんとふたりっきりで魔法少女について詳細を教えてくださらない」
「や、やめ、というか、力強いな! 本当に人間か!? 誰か、助けて、頼む、これとふたりだけになりたくない!」
抵抗しようとした青牙だったが、キャサリンの圧に負けて言葉遣いは弱くなり、最後には腕を掴まれて会場の外へ引きずられていく。
必死に助けを求め手を伸ばすが、サムをはじめ、エヴァンジェリンも、カルも、青樹も、顔をそらした。
「助けてぇえええええええええええええええええええええ!」
あれだけプライドの高い竜だった、青牙の必死の懇願は、残念ながらなかったことにされたのだった。
しばらく沈黙が訪れた。
「――ふっ」
すると、その静寂を破るように竜王炎樹が笑みを漏らす。
「炎樹さん?」
「かつて啀み合っていた兄弟が仲良く喧嘩し、騒がしい時間を送るとはな。たった一日で、こうも変化するとは――素晴らしい」
炎樹は、一日という短い間に長い時間を過ごしてきた竜たちに大きな変化が訪れたことを噛み締めるようにしていた。
青樹もエヴァンジェリンも同意見だったようだ。
親子三人が、今日の出来事を忘れないように、と頷いている中、
「いやぁ……息子さんが魔法少女に連れて行かれちゃったのに、素晴らしいで話をまとめちゃう竜王さんも大概アレっすね」
「――しっ。なんだかいい話で終わったんだから、余計なこと言わないの!」
カルがびっくりした様子で突っ込んだので、サムはこれ以上面倒が起きないように口に指を当て注意するのだった。
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