いずれ最強に至る転生魔法使い 〜異世界に転生したけど剣の才能がないから家を追い出されてしまいました。でも魔法の才能と素晴らしい師匠に出会えたので魔法使いの頂点を目指すことにします〜
15「恐れていたことが起きてしまいました」①
15「恐れていたことが起きてしまいました」①
「やあ、お待たせしたね。僕がいなくて寂しかったかな、サム?」
キャサリンと入れ替わりで現れたのは、白いスーツに青いシャツ、白い革靴を見事に着こなした、背の高いブロンドの貴公子――ギュンター・イグナーツだった。
「……そういえば会場にいなかったね。気にしなかったよ」
「嗚呼、素っ気ない君も素敵だ! なによりも、僕とお揃いの青いシャツを着ているとは、なんとも愛らしい。君の気持ちは伝わった!」
「相変わらずなテンションでなによりだよ。ていうか、どうして会場入りが遅れたの? クリーは?」
「……発情したママとの言葉にはできない激しい戦いがあってね。なんとか勝利できたのだが、こんな時間になってしまったのだよ」
「テンション低っ」
いつもどおりのハイテンションから一変して、暗い顔をするギュンターの感情の起伏にサムはついていけそうもなかった。
(戦いってイチャイチャしていただけじゃね? なんだかんだ言って、仲がいいんだよなぁ。余計なことを口にして絡まれるのは嫌だから黙っておくけど)
ギュンターと出会い半年ほどだが、サムは余計なことを言わないということを学んでいたので口を噤んだ。
「おっと、ご挨拶が遅れてしまったね。炎樹殿、青樹殿、そして女神エヴァンジェリン様、ご機嫌麗しゅう。ドレスもとてもよくお似合いです。……おや、そこで僕を見つめているお嬢さんはどなたかな?」
炎樹、青樹、エヴァンジェリンににこやかに挨拶するギュンターに彼女たちも挨拶を返した。
炎樹は小さく頷き、青樹はギュンターの言動に引きながらも「どうも」と、エヴァンジェリンに至ってはもう彼の言動に慣れているのか「おう」とだけ。
素っ気ない挨拶ではあるが、ギュンターは気にした様子もなく近くのテーブルにあるワインに手を伸ばそうとして、カルのほうを見た。
「えーっと、カル・イーラさんです。準魔王らしいです」
「どーも。カル・イーラっす」
「ほう。他の準魔王たちにはお世話になっているよ。しかし、君はなんだろうね、ゾーイたちとは違う感じがする」
「そりゃゾーイたちに個性では勝てないっすよ」
「そうではなく……なんというかだね、そう遠藤友也のように僕に近い気が」
「しねーっすよ! 気のせいっすよ! 一緒にしないでください! 私はスカイ王国代表の変態とは似ても似つかないっすから!」
「――ふっ。謙虚なお嬢さんだ」
「……えぇ……何この人、怖いっす」
やはりギュンターのことを前もって知っていたカルだが、かつての友也同様に同類とは思われたくないようで声を荒らげてギュンターの言葉を否定した。
しかし、変態にもカルの拒絶が、照れだか謙遜のように感じたらしく謙虚だと言い始める。
これにはカルも恐怖を抱いたようだ。
「ところでクリーはどうしたの? 一緒じゃないの?」
「ママなら屋敷で休んでいるよ。僕の尊厳を守るかつてない戦いだったからね。ママもちょっと疲弊してしまってね。どうせそのうち来るだろうが、それまで僕はパーティーを楽しむさ!」
「うわぁ、この人自分の奥さんをママって言ってるんですね。しかもひとまわり年下の女の子を……うわぁ」
「……あれだけの調教を受けたら無理もないのさ」
幼妻をママと呼ぶギュンターに、カルが再び引いた。
いつもなら叫んだり喚いたりする変態だが、今日は戦いの後のせいか元気がない。
「数々の調教を受け、たくさんのものを奪われもした。しかし、今回は僕の勝利だ! 人生にとって小さな一歩かもしれないが、僕にとっては大きな一歩だった! これからの僕は一味違うよ!」
「あ、そ」
名言みたいなことを言いながら髪をかきあげている変態に、サムもカルも素っ気なく返事をした。
炎樹たちに至っては、食事を再開して見向きもしていない。
しかし、変態はこんなことではめげない。
「わかっているよ、サム。そんな素っ気ない言動も、僕の興味を引きたいからなんだろう? 可愛らしい子だ」
「うわぁ、ぞわっとしましたよ、ぞわっと! この人……ていうか人? やばくないっすか?」
「やばいよ! スカイ王国で一番やばい奴だよ!」
「ふふふっ。そんなことを言われても僕は傷つかない! なぜなら、初めてママに勝利したからだ! 僕の全ての力を使いきり、ヘトヘトになってしまったが、この高揚感! 次回もこの調子で勝利だね!」
サムは口にこそしなかったが、次の『戦い』も視野に入っている時点で、クリーの勝ちのような気がした。
「あ、あのー。ちょっと疑問なんすけど?」
「なにかな、カル君?」
「ギュンターさんがすべての力を使ったってことは、変態魔王から善良な人々から守っていた結界はどうなったんっすか? もちろん、オートで発動中っすよね?」
カルの疑問に、サムは「さすがにその心配はないだろう」とギュンターを見た。
「―――――――――――――あ」
ギュンターの長い沈黙のあとに発せられた短い一言によって、サムとカルは嫌な汗を浮かべた。
「ちょ、まて、あ、ってお前」
「やばいっすよ、やばいっすよ! あの変態魔王、今、自分が結界があるって気を抜いてますからね! とんでもないスケベが起きますと! 下手したら、スカイ王国そのものがラッキースケベされちゃう可能性が」
「国がされちゃうスケベってどんなの!?」
馬鹿なことを真面目に言うカルとサムが、ギュンターに視線を向けると、彼は気まずそうな顔をして、震えながら口を開いた。
「……あとで被害者に心からの謝罪をし、イグナーツ公爵家が社会復帰まで全力でサポートすることを約束しよう」
「被害を諦めちゃった!」
刹那、
「きゃぁあああああああああああああああああああああ」
悲鳴の割には嬉しそうな声が、会場に響き渡ったのだった。
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