13「魔法少女について語ります」②
「青牙? なにを言っている?」
「兄さん?」
「……青牙?」
炎樹、青樹、エヴァンジェリンが青牙の言葉に驚いた顔をした。
サムも「あれ?」と嫌な予感がし、カルも「おや?」と首を傾げた。
そんな周囲の変化に気づかず、青牙ははっきりとした声で続けた。
「そう魔法少女とは愛らしい少女でなければならないのです。華奢で抱きしめたら折れてしまいそうな小さな少女の中に、愛と勇気がこれでもかと詰まっている! それが魔法少女という崇高な存在なのです! 見てください、この者を! 魔法少女? ちゃんちゃらおかしい!」
「…………なるほど。青牙は魔法使いについてだいぶ詳しいようだ」
竜王が感心したのか戸惑っているのかわからない表情で頷くと、自らの言動が周囲になにを思わせるのか青牙も察したのだろう。
顔色を青くすると、言葉を探す。
「――あ、いえ、その、これはですね、そのなんといいますか…………おのれ、エヴァンジェリン!」
「うっそだろ、お前! いい加減にしないとぶっ殺すぞ!」
悩み悩んだ上、青牙は目があったエヴァンジェリンのせいにしようとしたのだが、さすがにそれはありえないだろうと反論される。
すると、青牙は妹に近づくと、泣きそうな顔で懇願した。
「……頼む、エヴァンジェリン。恥を忍んで、頼みたい。この場限りでいい、お前のせいにさせてくれ。母上に隠していた私の趣味が知られてしまったら、私は、私は――」
「いや、もう手遅――あー、別にいいけどさ」
「――ありがとう!」
丸聞こえだった。
「……あのさ、聞こえているって突っ込むべきかな?」
「放置でいいじゃないっすか? 正直、知らねーって感じっす」
サムはこっそりカルに聞いてみたが、彼女は関わりたくないようだった。
一方、元凶のキャサリンはハンカチで目元を拭っていた。
「あらあら兄妹の絆が深まっている瞬間に立ち会えるなんて、嬉しいわ」
「キャサリンさんのおかげですけどねぇ!」
どこで青牙が魔法少女と知り合ったのか不明だが、少なくとも彼の出会った魔法少女はキャサリンのような存在ではないことは間違いない。
どうしたものか、とサムが話をどう変えようかと悩んでいると、
「……青牙兄さんが、まさか変態だったなんて」
動揺を隠しきれない様子で青樹が震えた声を出すと、くわっ、と青牙が目を剥いた。
「待て、青樹! 今の言葉は聞き逃せん! 魔法少女は変態ではない! もっと魂に響く素晴らしい存在なのだ!」
「……えー」
せっかく青牙を庇ったエヴァンジェリンだったが、これでは意味がないと天を仰いでいた。
「なにが、えー、だ! だいたい青樹も、少年と少年が絡み合う書物をすり切れるまで愛読しているではないか! それでありながら私を変態とは、どの口が言うのだ!」
「ぎゃあああああああああああああ! お母様の前で、よくも私の秘密を! いくら兄さんでも許せない、ぶっ殺してやる!」
「臨むところだ! かかってこい!」
鱗を顔に浮かべて睨み合う青牙と青樹。
「しょうもない理由で兄弟喧嘩が始まっちゃった!?」
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