12「魔法少女について語ります」①




「……キャサリンさん」

「あらあら、サムちゃんも素敵ね。髪型もバッチリ決めて、リーゼちゃんたちが頑張ったのね」

「え、ええ、まあ。キャサリンさんも、その、いつもとは違いますが、なかなかインパクトのある魔法少女の衣装ですね」


 サムが引きつって、なんとか世辞を吐き出すと、キャサリンは嬉しそうに頬を赤らめた。

 いつものピンク色の魔法少女の衣装ではなく、今日は青色の魔法少女の衣装だった。

 ふわふわ可愛い系のピンクに対し、スタイリッシュを意識した青い衣装である。

 しかし、根本は魔法少女だ。腰には大きなリボンがあしらわれていた。


「…………なんだこれは?」


 さすがの竜王の目を丸くしていた。おそらく、キャサリンをいや、魔法少女を理解できていないようだ。

 竜王だけではない。

 青牙も、青樹も、軽口ばかり叩いているカルでさえ、キャサリンの存在感に圧倒されてしまい、食事する手を止めて唖然としていた。

 エヴァンジェリンだけが、耐性があったのか「お、おおう」と短く声を漏らすだけで済んでいた。


「えっと、ですね、スカイ王国が誇る宮廷魔法少女のドミニク・キャサリン・ジョンストンさんです」

「…………魔法少女?」


 長い沈黙の後に、炎樹は首を傾げた。

 魔法少女がわからなかったのか、目の前の存在を魔法少女として認識できなかったのか、サムにはわからない。

 間違いないのは、キャサリンは竜王でもびっくりな存在だということだ。


「やべぇ、やべぇよこれ……情報では知っていたけど、視覚の暴力っすね。眼球がどうにかなりそうっす、いや、脳が壊れちゃうっす」

「だよな! やべえよな! 私も初めて見たときは、度肝を抜かれたぜ。初見にはきついって!」


 ごくり、と唾を呑み込みながら恐る恐る言葉を吐き出したカルに、同意するようにエヴァンジェリンが声を発した。

 サムとしても、フォローのしようがない。

 むしろ、キャサリンの登場をなにも問題なく平然としている貴族や、「あら、キャサリン様よ! 今日も素敵ね!」と感心している令嬢たちのほうが異常なのだ。

 キャサリンは、なぜか筋肉を魅せるようにポーズとをとると、自己紹介をした。


「うふふっ、ご紹介に預かりました、宮廷魔法少女のドミニク・キャサリン・ジョンストンよ。気軽にキャサリンって呼んでね」


 ばちんっ、とウインクするキャサリンに「おえっ」とカルが口を押さえた。

 さて、どうしようとサムがこれからに悩んでいると、炎樹が深々と頷いたのだ。


「――なるほど、これが魔法少女か。理解した」


 と、おかしな魔法少女像を認識してしまったので、サムが慌てると、


「お、お待ちください、母上! この物体は決して魔法少女ではありません! 魔法少女とはもっと可憐であり、心をくすぐる存在であり、この身の心も縮むような存在ではありません!」


 なぜか青牙が魔法少女の擁護をはじめた。




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