11「情報をもらいました」②




「また脱線しちゃいましたけど、そんなわけでこの国の貴族がどう足掻こうと竜王様も魔王様もどうこうできるわけがないんすよ」

「わかっている。そのあたりは別に心配していないんだけど」


 サムの懸念はそこではない。


「炎樹さんたちの怒りを買ったら、と思うと考えるだけで胃が痛いよ」

「その場合は、相手がかけらも残らないっすから、面倒がなくていいんじゃないっすか? 一緒に、王宮の一角くらい吹き飛ばすかもしれねーっすけど、勉強料ってことで」

「……それじゃなくても俺が一角吹き飛ばしたのに、二度目はちょっと。俺、炎樹さんの近くにいくよ」

「あ、じゃあ、私もお供するっす。そろそろおかわりが欲しかったんで、そのついでにちょうどよかったっすよ」

「……まだ食べるんだね」


 苦笑しつつ、サムとカルは会場の窓の近くでワイングラスに口をつける竜王炎樹の近くに移動した。


「――サム」

「どうも。楽しんでいますか?」

「人間とこうして関わるのは初めてだ。クライド・アイル・スカイや、サムの伴侶たちを含め、いい国だ」

「ありがとうございます」


 炎樹という名の通り、燃えるような真っ赤なドレスに身を包んだ竜王は小さく微笑んだ。

 その笑顔につられてサムも笑う。


「青牙と青樹はどう……て、楽しんでいるようでなによりだよ」


 竜王の子供である青牙と青樹は、カル同様にお皿に食事を盛り付けていた。

 カルもおかわりをしたようで、三人揃って食事に夢中だった。

 しかし、がつがつと食べるのではなく、品性を保ったままだ。


「人間の食事は美味いな。これほど美味いものがあるなんて……感動だ」

「そうね。こんな食事が振る舞われるなら毎日パーティーしてあげてもいいわよ」

「同感っす!」

「毎日はできないでしょう。というか、竜はどんな食生活しているんだ?」


 食事に感動している青牙に興味本位で尋ねると、グレーのスーツを着こなした彼は涙を流さんばかりに訴えた。


「竜は基本的に生食だ」

「はぁ?」

「人の姿をしているが、胃は頑丈なのだから……違うな、料理をしようとする者がいない」

「それはなんというか……雑だなぁ」

「家畜を飼い、ときには里から少し離れた場所で獣を狩るが、手をかけるのはそこまでだ。基本的にそのままなのだ」

「果実のほうが美味しいのよね」


 青牙に同意して頷く青樹。

 彼女は深い緑色のドレスに身を包んでいた。

 炎樹たちは容姿端麗であり堂々としているゆえ、無駄に着飾った貴族たちよりもよほど貴族らしく見えた。


「私も同感。竜の里を出ていろいろあったけど、まず飯が美味いって感動したよな」


 うんうん、とエヴァンジェリンもワインを飲みながら同意する。

 彼女は純白の衣装に袖を通し、金細工を首や手首に身につけていた。

 普段は着飾らないエヴァンジェリンだけに、新鮮さがあり、それ以上によく似合っていた。


「そもそも竜はプライドが高すぎるんっすよ。人間と同じことはしない、みたいな竜がいるっすけど、しないじゃなくてできねーんじゃねえかっていうね」

「……カル。てめーも来ていたのかよ。つーか、ダーリンの横で下品に飯かきこみやがって、こっちにきやがれ」

「エヴァンジェリンさんがサムさんをダーリン呼ばわりしているのは知っていますけどー、養ってもらうのはこの私っすよ!」

「別に私は養ってもらわなくたっていいんだけどさ。つーか、お前、神殿のお布施がいくらか知ってんのか!? 目ん玉飛び出るくらいの額だぞ!」


 エヴァンジェリンの叫びに、そういえば、とサムは思い出した。

 女神エヴァンジェリンは気さくに会ってくれるし、偏ってはいるが願いを叶えてくれる女神として人気だ。

 一方で、その願いを叶えるのに金銭を要求しない。

 だが、世話になった人々が、お布施として神殿に渡しているようなのだが、それがかなりの額だとギュンターが言っていた。

 とくに貴族たちは、長年抱えていたコンプレックスや性癖を解消されたこともあり、信じられない額を寄付したそうだ。

 エヴァンジェリンは金はいらないと言っているが、善意を断るほど頑なではないようで、その寄付金を王都のために使おうとしているらしい。すでに、孤児院や、無料の学校を作ろうとする計画があるらしい。

 ただ、一部はエヴァンジェリンに届くよう、お小遣いとして渡されているようなのだが、それだけでも相当の額らしい。


「……ダーリン、こいつは面倒な奴だから関わらない方がいいぜ」

「うん。それはすぐにわかった」

「酷いっす!」


 エヴァンジェリンの言動は変わらないが、どこかいつもより明るく見える。

 きっと、家族と近づけたことがきっかけなのではないかと推測する。

 まだぎこちないところはあるだろうが、竜の寿命は長い。何年もかけて、本当の意味で家族になれる日が来ることを祈っている。

 そんな時、サムたちに近づく影があった。

 問題の貴族が来たのだとサムが警戒しつつ、振り返ると、


「あーらぁ、皆様、素敵なお召し物ねぇ」


 貴族は貴族でも、サムの知己であるドミニク・キャサリン・ジョンストン宮廷魔法使いがいた。




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