50「お風呂です」




 やっと一息つける、とサムが思ったのも矢先。

 その日の夕方から、王宮にて竜王家族と魔王、準魔王の歓迎会が開かれることとなった。

 眠いし、空腹だし、汗と血で決して清潔と言えない状況だったので、まず風呂となった。

 ウォーカー伯爵家の大浴場に行こうとすると、「僕もご一緒させてもらいましょう」と友也がタオル持参でついてきた。続いてレームが「お兄ちゃんの背中を流すのは俺の役目だ!」と飛んできて、「兄貴のお背中は弟分の俺が!」とボーウッドが対抗する。


 最後にはお決まりのようにギュンターが浴室で全裸待機していて、輝かしい笑顔を浮かべていた。だが、変態行為は珍しくしてこなかったので、追い出しはしなかった。

 そこでサムが「青牙はどうしているのかな?」なんて不用意に言ったせいで、友也が青牙を強制転移させる。


 伯爵家の部屋に通され一息した瞬間に風呂場に転移された青牙は、少々間抜けな顔をしていたが、すぐに友也の仕業だとわかると激昂した。しかし、レームに拘束され、ギュンターに流れるように衣服を脱がされると、そのまま浴室へ。

 最初こそ、ぶつぶつ文句を言っていた青牙だったが、人間の風呂に興味があるようですぐに静かになった。


「ぜひ! みんなで並んで背中を流したいです!」


 みんなで浴室に入ると、急に友也が変なことを言い出した。


「ほら、修学旅行でやるやつですよ! 仲のいい男子が並んで!」

「……それ、実際にやらないでしょ」

「え?」


 サムの前世の記憶にそんなことはしたことはない。

 どちらかと言うと、あまり友人たちに裸を見られたくないと、そそくさと身体を洗う男子ばかりだった。

 サムは人目を気にせず、のんびり風呂を満喫するタイプだった。

 とても残念そうな顔をする、友也にサムが尋ねてみた。


「なんで急に?」

「ほら、僕って中二でこっちにきたので修学旅行未経験なんですよ。小学生のころも行けませんでしたし。なんといっても、友達がいなかったので背中の流しっこなんてできませんでしたけどね!」

「またそうやって悲しいこと言ぅ」


 魔王の自虐ネタはあまり笑えないどころか、心にくるものがある。

 ギュンター、ボーウッド、レーム、青牙は修学旅行を知らないので、なんのことやら、と首を傾げていたが、友也に友達がいないのだけはわかったようだ。


「君のような変態魔王の友人になれる者などそうそういないだろうね」

「変態に言われたくありません!」

「魔王のくせに友達もいないのか。俺は友達たくさんだったぞ!」

「魔王は関係ないでしょう!」

「失礼ながら、男女構わずスケベな悪行ばかりを繰り広げる魔王の友人になりたい者は大陸広しとはいえ皆無かと」

「本当に失礼ですねぇ! ブラコン魔族のくせに!」

「……よくわからんが、友人なら私もいないぞ」

「――同士ですね!」


 冷たい対応のギュンターとレームだが、青牙は友也と同じく友人がいないようだ。

 同じ境遇を見つけてにこやかにする友也の姿に涙が出そうになったサムは、彼の願いを叶えることにした。


「ふふふ。これがみんなで仲良くお風呂ですか。転生して千年以上経ちますが、ようやく夢がひとつ叶いましたね。レプシーの奴は一緒にお風呂に入ってくれなかったので」


(そりゃ、男女構わずラッキースケベしちゃうような体質の持ち主と一緒にお風呂は嫌だよねぇ)


 石鹸を手にしてわしゃわしゃ泡だて始める友也の呟きに、サムはそんなことを思った。

 今だってギュンターの結界があるおかげでラッキースケベせずにいるのだ。


「実を言うと、王宮でおもてなしとかも初めてなんですよね。いえ、一度ありましたけど、その国の王妃と王女にスケベってしまったので、以後呼ばれたことがありません」

「本当に災厄みたいな体質だね!」

「だから神様に会ってなんとかしてほしいんですよ!」


 浴室に友也の叫びが響いた。

 その後、誰が誰の背中を洗うかで揉めたが、サムは無難に青牙にお願いする。

 さすがのサムも全裸の状態でギュンターに背を預ける勇気はなかった。




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