48「友也は楽しみです」
遠藤友也は、必死に吹き出しそうなのを堪えていた。
(サムが魔王に至ったのは嬉しいんですが、神と会わなかったのは残念ですね。だけど、収穫もありました。まさかギュンター君の結界のおかげで、周囲にスケベしなくていいとは想定外でしたが、嬉しい誤算です)
久しぶりに、スケベに怯えずに人の輪の中に居られることを嬉しく思う。
思い返せば、慕ってくれる人たちがいても、自分の体質のせいで思うように心を開けたことがなかった。
ラッキースケベを気にしない人たちもたくさんいたが、魅了の心配があって、あと一歩が踏み出せない。
しかし、サムの周りは違う。
自分など霞んでしまうような個性的な連中が集まり、笑顔が絶えないのだ。
その輪の中に、今、こうして自分がいることが心地よく、嬉しかった。
(サムたちの反応を見ていると、僕に魅了はないのかもしれない。だけど、まだ、不安だ。まったく、中途半端に漫画やラノベの知識があるから、変な心配ばかりしてしまうな。漫画とか千年以上読んだこともないのに)
きっと臆病なのは、こちらの世界にくる前に地球で嫌われていたからだ。
血の繋がった親でさえ、友也を疎んでいたのだ、他者との繋がりに臆病になるのは仕方がないことだ、と客観的に自己判断する。
同時に、千年経っても情けない男だ、とも思う。
(やはり神に会いたい。あって、ラッキースケベという体質はあっても、魅了はない、大丈夫だよ、とちゃんと言われたい。曖昧ではなく、たぶんとかではなく、ちゃんと断言して欲しい)
残念なことに、この世界に神はいない。
同僚の竜が女神エヴァンジェリンなどと崇め祀られているが、そんな偽りの神ではなく、転生時にあった本物の神と会いたいのだ。
その一環として、サムの魔王化を手伝った。
もちろん、サムに死んで欲しくないという気持ちが一番だったが、魔王に至ることによって「上」の世界に干渉できるのではないかと思っていたが、期待通りにはならなかった。
代わりに、サムが自分が想像していた以上の力を得て、魔王に至ったことは朗報だ。
鍛えれば、いずれ全盛期のレプシー・ダニエルズを超える存在になるだろう。
その時は、友人から共に戦う同志になりたい。
(ヴィヴィアンにばかり迷惑をかけるのも悪いですからね。そういう意味ではエヴァンジェリンをはじめ、他の魔王たちにもっと魔王の意味と自覚を促すべきなんでしょうが……個性あふれる魔王を相手にするのは結構面倒なんですよねぇ。だけど、幸いなことに、魔王たちが全員サムに興味を持っている。これは利用しない手はないですね)
すでにサムと会っているのは、自分と、エヴァンジェリン、ヴィヴィアン、ダグラスだ。他にも、元勇者と獣の王がいる。
ふたりもサムには興味を抱いており、片方など、魔王に至ったとわかればすぐに喧嘩を売りにくるかもしれない。
(真なる魔王を名乗る愉快な元魔王の残党がなにを企んでいるのかわからないのが腹立たしいですが、少なくともあの魔王を名乗った連中が、魔王級であることは間違いない。そう遠くないうちにぶつかるでしょう。ああ、もう、やることは山積みだ! なんて楽しいんだ!)
サムがウルと出会い、魔法に携わるようになって約四年。そろそろ五年が経とうとしている。
その間に、世界は動いた。
停滞気味だった世界が動いたのだ。
魔王に変化が訪れた。
友也に至っては、サムが同郷の転生者だったことも面白い。
きっとこれから世界が変わっていくだろう。
このスカイ王国という国を中心に。
(久しぶりに世界が楽しくなってきたんです。どこまで楽しくなるか見守っていますからね、サム)
ただ、と友也は、ギュンターとクライドに視線を向ける。
(変態が跋扈する世界にならないといいなぁ)
ラッキースケベの魔王がよく言う、と友也の心の声が聞こえていたら誰もが突っ込んでいただろう、そんなことを思いながら、楽しそうに笑顔を浮かべるサムたちを見て仲間たちに会いたくなるのだった。
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