47「帰ってきました」③




「ま、まあ、ダニエルズ兄妹はお世話になったので、お兄ちゃんお姉ちゃんはともかく暖かく迎えてあげてください」


 それだけ言うと、サムは続いて竜王炎樹を紹介することにした。

 気のせいか、すこしそわそわしているように見える。


「えー、驚くかもしれませんが、竜王の炎樹さんです。エヴァンジェリンのお母さんです。隣にいるのは、お子さんの青牙と青樹です」


 リーゼたちが目を見開く。

 無理もない。

 竜ならウォーカー伯爵家にいるが、まさか竜王まで現れるとは思っていなかったのだろう。

 サムだって、驚いている。

 言葉を探すも見つけられず唖然としているリーゼたちに、炎樹は近づくと、どこから取り出したのか紙包に包まれたなにかを差し出した。


「これはつまらないものだが、受け取って欲しい」

「あ、ありがとうございます、竜王様」

「炎樹と呼んでくれて構わない。リーゼロッテ・シャイト、そしてサムの妻たちよ――私もサムの妻のひとりとして、末席に加えてもらえると嬉しい」

「――ちょ」

「ママ!? 本気だったの!?」

「母上!?」

「お母様!」


 サム、エヴァンジェリン、青牙、青樹が驚く。

 この竜王、本気でサムに嫁ぐつもりだったのか、と。


「私には愛しい子供はいるが、夫はいないので揉め事にならないだろう。人間の爵位なども興味はない。私は、ただ、サミュエル・シャイトの子を産みたいのだ」

「……竜王様、いえ、あえて炎樹様と呼ばせていただきます。あなたがサムの子を産みたいと思う気持ちをとやかく言うつもりはありません。ですが、お聞きしたいことがあります」

「なんでも聞くといい」


 一度、大きく息を吸い込んだリーゼは、竜王に臆することなく毅然な態度を取った。

 リーゼだけではなく、アリシアたちもちゃんと炎樹のことを見つめる。


「あなたはサムの子供を生みたいだけですか? 強い子供がほしいとか、そのような理由なのですか? で、あれば、私たちはあなたを歓迎することはできません!」


 はっきりそう言ったリーゼ。

 リーゼたちは、いつだってサムのことを真剣に愛してくれている。

 だからこそ、竜王の子供を産みたいという言葉に反応した。


「……言葉足らずですまなかった。私も竜である前に女だ。愛していない男の子はほしくない。はっきりと言おう、私はサミュエル・シャイトを心から愛している。そうだな、お前たちの王の言葉を借りるなら――ビンビンだ」

「さ、最後の一言は余計でしたが、炎樹様のお気持ちはわかりました。――ようこそシャイト家へ!」


 リーゼ、ステラ、花蓮、水樹、フランが拍手をし、アリシアが「ようこそシャイト家へ」と書かれたタスキに炎樹に潜らせる。


「ちょ、なにそれ!?」

「サムが新しいお嫁さんを連れてくることを想定して僕たちで用意しておいたんだ! 字を書いたのは僕だよ!」

「いや、そうじゃなくてですね、わざわざ準備していたんですか!?」


 ちょっとドヤ顔をする水樹にサムが突っ込む。

 しかし、フランがきっぱり言った。


「でも、実際に、新しいお嫁さんを連れてきたじゃない」

「俺が連れてきたわけじゃないんですけどねぇ!」


 竜王を嫌いとかではなく、話が一足飛びすぎるので対応に困る。

 かつて戦闘を繰り広げ、翼を斬り落としたのだ。恨まれているのならわかるが、なぜ愛されているのか不思議でならなかった。


「――ちょっと待った!」


 もちろん、このまま炎樹がサムの奥さんのひとりにすんなりなることはなく、待ったをかける者がいた。


「ママ! 私がダーリンと結ばれる前に奥さんになるとかちょっとあり得ないんだけど!」

「……そうだったな。すまない、自分のことばかりだった。リーゼロッテ・シャイトよ。我が娘もサムの妻に」

「ご心配なく。ちゃんとエヴァンジェリン、ゾーイ、ダフネはサムの妻として認識していますので」

「ならばよかった」

「マジかよ、おい!」


 まさかエヴァンジェリン、ゾーイ、ダフネの三人がリーゼたちの中で自分の妻扱いされているとは、さすがのサムも想像していなかった。


「そうなの? ならいいけどさぁ!」

「よくない! なぜ私までサムの妻になっているのだ!?」

「いいじゃありませんか、幸せにしてもらいましょう。ね?」


 本当の意味で抗議の声を上げたのは、ゾーイだった。

 彼女もまさか、自分がサムの嫁として認識されているとは思わなかったようだ。

 エヴァンジェリンは安心し、ダフネはもちろんと言った様子だが、ゾーイは顔を真っ赤にして反論しようとする。


「ね、ではない、この変態メイドが! べ、別にサムのことを嫌いだと言うつもりはない! そこは誤解するな! だが、いきなり妻だとかそういうのは早い! まずは文通からだと以前言っただろう!」

「……問題はそこなんだ!」

「馬鹿者! なにごとも順序が大切なのだ!」

「あ、はい。すみません」


 ついサムが突っ込むと、叱られてしまった。


「なによりも、サムと結婚するということは、ビンビン国王や女体化する変態までもれなくついてくるのだぞ! 私は今後しばらくツッコミばかりをする日々なのか!? 喉が壊れる!」


 ゾーイの予感は間違っていないだろう。

 少なくともサムはそう思った。


「……魔王、準魔王、竜に竜王、スカイ王国は、我が家はどうなってしまうのだ? ――はうっ」


 そして、ついにジョナサンが胃を抑えて、気絶してしまった。


「お義父様ぁああああああああああああああ!」


 心労と胃痛の原因であるサムが慌てて駆け寄る。


「うむ! ビンビンであるな!」

「あんた、それ言えば丸く治ると思っているなら勘違いだからな!」


 まるで話をまとめようとビンビン言い出したクライドに、不敬とか知ったことかとサムが叫んだ。




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