39「メルシーでした」
「め、メルシーちゃんなの? 灼熱竜の子供の、子竜姉妹の長女でアリシアが名付けた、あのメルシーちゃんですか!?」
「そうだよ! アリシアママと一緒にいたら、クソ親父の力を感じたから、ボッコボッコにしにきたんだ!」
「穢れのない笑顔でなんて物騒なことを……でも、どうして人の姿に?」
ギュンターの指摘通り、少女からメルシーの魔力を感じとったサムだが、疑問は尽きない。
最大の謎は、人化していることだ。
いずれできると灼熱竜から聞いていたが、まさかこんなタイミングだとは思わなかった。
人化のせいで、サムの覚えのあるメルシーの魔力から若干変化していたことですぐに気づくことができなかったのもあるが、なによりも全裸で玉兎に空から蹴りを入れるというインパクト過ぎる登場だったため、混乱したこともすぐメルシーだとわからなかった理由だ。
「え? だって、この方が攻撃しやすいじゃん?」
「すごく雑な理由!」
とんでもない理由で人化したことに、サムは驚けばいいのか、笑えばいいのかわからなかった。
確かに、竜の姿よりも人の姿のほうが戦いやすい面はあるだろう。実際、玉兎も人型でサムと戦った。
ただ、戦いやすいというだけで、強さがどちらのほうがいいかというのは竜ではないサムにはわからない。
「でも、なんていうか、メルシーには玉兎を殴る理由はあるよねぇ」
「殴るじゃすまさないよ! ぼっこぼっこのグッチャグッチャにするよ!」
「娘からの嫌われ度がすごい!」
(……メルシーが嫌うのもわかるんだよねぇ。ちょっと話して喧嘩した感じ、玉兎って悪い奴じゃないし、むしろいい奴だとは思うんだけど――若い竜と浮気していたよね? んで、灼熱竜が怒って帰ってきたけど、そのあとのフォローないわけだし?)
はっきり言って、現状では夫として最低だと思う。
「サム」
「友也? あんまり近づくなよ? メルシーにスケベしたらぶった斬るよ!」
「しませんよ! 一応、僕の周りにギュンター君に結界を張ってもらってますからね」
「あ、そうなんだ?」
「ええ、さすがにスカイ王国の市街地でスケベるわけには行きませんので。今までは、僕を封じてくれる人がいなかったので……あんな変態に頼みたくはありませんでしたが。僕、土下座させられましたからね!」
「すげぇなギュンター。魔王に土下座させたのかよ」
「……まあ、今のところその甲斐はありました。それよりも、これを」
友也がサムに投げて私のは、女性ものの衣服だった。
ミニスカート、半袖のシャツ、ご丁寧にサンダルと下着まである。
「……なぁにこれ?」
「なにって、メルシー君に服を着せてください。いつまでも裸のままでは格好もつかないでしょう」
「……なんで女性の服持ってるの? きもー!」
「せっかく準備してあげたのに! 僕が女性の服を所持ているのは、ラッキースケベのせいで服をめちゃくちゃにしてしまった過去があったので、その場合に備えているんです!」
どんな理由だよ、と突っ込みを入れようと思ったが、話がややこしくなるのでやめた。
メルシーに服を手渡すと、着る意味を理解しているようで、自分で衣服を身につけていく。
少々、足を出し過ぎな気がしないでもないが、健康的で快活な赤毛の少女には友也の用意した服はよく似合っていた。
「おお! いいなこれ! ちょっと動きにくいけど、なんだかいいぞ!」
「そりゃよかった。……ありがとう、友也くん」
「……ありがたく思われていないというか、距離を感じますが、今はいいでしょう。それよりも、来ますよ」
「ん?」
友也が指を差すと同時に、玉兎の埋まっていた地面が爆発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます