38「乱入者です」②
「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
突如、十五歳前後の赤毛の全裸美少女が降ってきて、玉兎の頭に蹴りをかましてそのまま地面にめり込ませた――というわけのわからない状況に、サムが絶叫を上げた。
サムだけではない、この場にいる誰もが目を見開いている。それは竜王も同様だった。
「――ふう。悪は去った!」
誰もが驚きを隠せない中、少女は玉兎を一瞥すると、やり切った顔をして笑みを浮かべる。
「あ、サムパパ!」
そして、サムを見つけて手を振りながら近づいてきた。
「え? 俺? って、パパ?」
まさかの「パパ」呼びに、サムの心臓がバクバクする。
(落ち着け、落ち着くんだサミュエル・シャイト。リーゼ様の子供が生まれ――ねーよ! いや仮に超早産だったとしても赤ちゃんだろ! いや、違うだろ! 明らかに俺と同じか年上くらいの子供が俺にいるわけねーだろ!)
一瞬、「え? 俺の子供?」と動揺したサムだが、違うことを確信する。
そもそもリーゼと結ばれるまで、女性経験もなかったのだ。子供の作りようがない。
「さ、サム」
「ゾーイ?」
「お前、あんなに大きな子がいたのか?」
「ゾーイさん!?」
「いや、それはいいんだ。だがな、服くらい買ってやれ。な? もし金がないのなら、私が買ってやろう。だから娘に全裸で外出させるのはやめるんだ。いいな、約束だぞ?」
「ゾーイさんがボケたら、俺はどう対処していいのかわからない! というか、娘を全裸で歩かせるような男だと思われて心外! 超心外!」
普段真面目で、変態どもにツッコミを入れてくれる貴重な良心だと思っていたゾーイが、まさかボケ側に回るとは思わず、サムが嘆く。
「パパー!」
「ちょ、抱きついちゃだめぇ! 女の子なんだから、せめて服をね?」
パパ扱いは一度置いておくとして、全裸をやめさせたかった。
ただ、不思議なことに、年相応の少女の肉付きをしている彼女に、サムは「はしたない」以外の感情を抱かなかった。
抱きつかれているにもかかわらず、サムの心に色欲的なものはない。
むしろ、お風呂上がりの子供が服を着ずにどっかにいってしまい、やれやれ、と思う親のような心境だった。
「ぶー! いつも裸だもん!」
「いつも裸なの!?」
「……サム」
「ゾーイさん、誤解です。そんな目で見ないでください! あとそろそろ誤解だと気付いて!」
冷たい視線を送るゾーイの中で、自分はさぞ悪い男になっているのだろう。
恐る恐る周囲を見渡すと、みんなが同じように唖然としていた。
最近変態だと分かった姉同然のメイドダフネは、「やはり初めてを奪うべきでした!」と嘆き、ボーウッドは「獣人でも服は着ますぜ?」と洋服を着ることの大事さを口にする。
エヴァンジェリンは「――ダーリン」と悲しそうな顔をして、クライドなどは「サムは幼少期からビンビンであったか……さすがに引くのう」と普段のお前の言動の方が引くわ、と突っ込みたくなることを好き勝手に言っている。
竜王は無言だが目を丸くしているし、青牙と青樹は汚物でも見るような視線を向けていた。
ダニエルズ兄弟はフォローしようと言葉を探しているようだが、見つからないようで汗をかいている。
友也に至っては、地面に転げ回って爆笑していた。
(――やばい。このままでは死んじゃう! 俺の信用的なものが!)
ふ、と気づく。
いつもなら我先に絶叫し、意味のわからない言葉を羅列する変態が静かだ、と。
少女に抱きつかれたままのサムがギュンターに視線を向けてみると、
「なぜ、みんなはそんなに驚いているのか理解に苦しむ。少女が全裸なのはいただけないが、彼女の言うようにいつも全裸なのだから仕方がないことだ。僕たちで、後々教育してあげればいいだけのことではないか?」
彼だけが、みんなと違った反応だった。
まるで少女のことを知っているようだ。
「もしかして……君たちはあの子の正体に気付いていなかったりするのかな?」
「え? ギュンターはこの子のことわかるの?」
サムが尋ねると、ギュンターはやれやれと肩を竦めた。
「君らしくないね、サム。彼女の魔力をちゃんと感じてごらん」
「え?」
言われた通りに、少女の魔力に集中すると、覚えのある魔力だった。
「も、もしかして」
「もしかしなくとも、この子は、可愛い子竜のメルシー君だよ」
「えぇええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
正体がわかったらわかったで、驚きの絶叫をあげてしまった。
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