20「またまたまたビンビンです」①
「な、なんで、ビンビン?」
恐る恐る問うて見ると、竜王はサムの背後を指差した。
「そこにいる、スカイ王国国王クライド・アイル・スカイにビンビンであるかと聞かれたのだが?」
「……クライド様?」
サムが振り返り、引きつった顔をして尋ねると、義父が申し訳なさそうに頭を下げた。
「あー、申し訳ないと思っている。正直、真面目に反応されてしまい私自身動揺を隠せずにいる。しかし!」
反省していると思いきや、クライドはくわっ、と目を見開くと強い意思の籠もった瞳をサムに向けた。
「だが、私は後悔していない! なんどでもビンビンであるか問い続けるだろう! なぜなら――私がビンビンであるからだ!」
「知るかよぉ!」
ゾーイに、尻を蹴飛ばされたクライドにサムが叫んだ。
レプシーが亡くなって以来、重すぎた責務から解放されたクライドだが、いい加減はっちゃけすぎだと思う。
最初こそ、重責から解放された反動だと温かい目で見守っていたのだが、どうやら素のクライドこそ今のクライドのようだ。
大変残念なことだが、レプシーの存在が、クライドの本性を抑えていたのかもしれない。
そう考えると、ナジャリアの民はレプシーだけではなく、クライドの心まで解放してしまったことになる。
「それで、サミュエル・シャイト。ビンビンとはなんだ?」
「まだ続くんだ!?」
「無論。問われたのなら応じよう。だが、意味がわからず、応じられない」
「律儀!」
竜王とはかつて短い時間だけ言葉を交わしたことがあったが、意外と真面目というか、マイペースというか、掴み所のない性格をしているように感じた。
「ビンビンとはなんだ? 説明を求める」
「いえ、あの、それはですね……」
なぜ会話だけでこうも追い詰められなければならないのだ、とサムはクライドを恨みたくなった。
人外の美しさを持つ女性に、ビンビンについて語るなどしたくないし、できない。
(――ならば!)
いいことを思いついたサムは、邪悪な笑みを浮かべた。
「えっと、竜王」
「炎樹でいいと言ったはずだ」
「あー、はい。じゃあ、炎樹さん。ビンビンに関してですが、俺には難しくて説明できないので――ながーく生きている魔王遠藤友也君が説明してくれます!」
「――ちょ!?」
サムの作戦はまさかの丸投げだった。
突然、振られた友也は、予想外の出来事に絶句している。
「そういえば、魔王遠藤友也もいたな。久しいな。また私の身体に無遠慮に触れたら、殺してやろう。我が身体は伴侶のものだ、いいな? わかったのなら、ビンビンについて説明しろ」
「さ、サム! 僕に押し付けないでくださいよ! それじゃなくてもラッキースケベ魔王として名を轟かせているのに、変態魔王になってしまいますって!」
「大丈夫、もう変態魔王じゃん!」
「ぶっ飛ばしますよ! 前も言いましたが僕だって好きでスケベしているわけじゃないんですから! 女性にビンビンなんて、しかもこんな空気の中説明なんてできませんよ! というか、そもそもビンビンの定義ってなんですか!?」
「知らない!」
「ああああああああっ! もう、僕には無理です! いくら魔王とはいえやれることとやれないことがあるんですよ! そうだ、エヴァンジェリン! 君の出番です!」
「はぁ!? なんで私が!」
「君の母親でしょう!」
「ママに説明できるかよ! 邪竜通り越して変態竜になったらどうするんだ! おい、ギュンター! お前の出番だ!」
「女神様。いくら女神様の要望とはいえ、女性に破廉恥な説明など、このギュンター・イグナーツできません」
「嘘つけ! 散々、サムに迫ったり、嫁に調教されたりしているくせに、なんでこんなときだけ真面目ぶるんだよ!」
「僕のビンビンはサムだけのものです! いくら竜王とはいえ、僕のビンビンを奪わせない!」
「誰もそんなこと言ってねえだろぉおおおおおおおおおおお!」
もう収集がつかないじゃないかと言うほど混沌だった。
すると、
「――それだ」
竜王が口を開いた。
「えっと、どれです?」
サムが尋ねると、竜王は娘に視線を向けた。
「我が娘、エヴァンジェリンが女神とはなんだ? 先ほども言ったが、私はそれを確かめるために、この地へきたのだ。説明しろ」
「ビンビンから話がそれたけど、また説明し辛いことを要求するなぁ!」
サムが髪を振り乱し、叫んだ時だった。
「ええい! もういい加減にしろ! どいつもこいつもぐだぐだと、話が進まん! そんなにしてほしいなら私が説明してやろう! ビンビンだろうがなんでも私に聞け!」
この空気にうんざりしていたゾーイが、クライドの尻に蹴りを入れ、続けてエヴァンジェリン、友也の尻にも蹴りを入れながら前に出た。
そして、サムの背中を思いっきり叩くと、竜王と向き合う。
「よく聞け、竜王よ! ビンビンとは――」
そこからしばらくゾーイの独壇場だった。
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