19「竜王VS変態です」
「し、死んだんじゃね?」
「あ、死んだ。死んだな。死んだでしょ、あれ。ギュンター、安らかに眠れ」
サムが手を合わせて拝み、母の一撃をもらったギュンターに、エヴァンジェリンが顔を引きつらせた。
しかし、変態は地面を爆発させて大きく跳躍すると、
「しつけの時間だぁああああああああああああああああああああああああ! この身で味わったママの調教術で我が家のペットにしてくれるわぁああああああああああああああああああ!」
地面に着地すると同時に、しゅばっ、しゅばっ、しゅばっ、といくつか意味不明なポーズをとると、ガニ股になりつつ股間の前で両手でハートマークを作った。
「暴走したサムとの戦いの中、変態魔王から伝授された僕の奥義を披露しよう! 防御ばかりだった僕の攻撃技! ――クリーたんラブラブビームっ!」
「うっそだろ!? なにその技名っ!?」
サムが吹き出すと同時に、ギュンターの股間から放たれたど太い白い閃光が地面を削りながら竜王に向かう。
彼女は迫りくる魔力の塊とも言える一撃を感情のこもらない目で見ると、先ほどと同じく、手で払った。
「気持ち悪い」
弾かれた閃光が、離れた地面に炸裂すると大穴を開ける。
それだけ威力があったのだろうが、ギュンターのポージングから技名まで意味がわからないせいで、台無しだった。
竜王が、短く「気持ち悪い」としか言わなかったのも彼女が本気でそう思ったのだとわかる。
閃光を放ち終えたギュンターは、まるで大きなダメージを負ったように苦悶の表情を浮かべると、その場に膝をついてしまった。
「一体なんだこの名前は!? これでいいのか!?」
「なんというか、ボケからツッコミまでひとりでお疲れ様」
「クリーたんラブラブビームっ、と叫ばないと技が発動しないのだよ!」
「なにそれ!?」
そんな変技ひとつで竜王に立ち向かおうとするのが変態すぎる。
これには、友也をはじめ、ギュンターとクリーの関係を知る者たちが困惑気味だ。
ただ、竜たちとダニエルズ兄弟はイグナーツ次期公爵夫妻のことを知らないので、なにがなにやら、という感じだった。
竜王だけが興味を示さず、冷たい目をしていた。
「つーか、友也もどんな技を授けているんだよ!」
「……いえ、あのですね。言い訳をすると、彼は魔力の操作がとても上手いんですよ。だからアホみたいに強靭な結界も張れるので、試しに魔力を収束して一気に放出する技を教えてみたのですが」
「魔力砲ってやつだね」
「ええ。ただ、なんというか、彼の一番力が集まる場所が――股間だったんです」
「……なんでぇ?」
「知りませんよ。まあ、その、僕も少し悪ノリしてしまったこともあり、クリーたんラブラブビームと名付けましたが、別にいちいち言わなくていいんですよ。でも、彼、根が真面目というか、いえ、大馬鹿というか、思い込みが激しいというか、きっと全部なんでしょうけど……」
「お前のせいじゃん!」
「でもほら、威力はすごいでしょう!」
「竜王には効かなかったよ! 蚊でも振り払うように弾かれたよ!」
「竜王に通じる攻撃ができる人間のほうが珍しいですよ! 弾く、という動作を取らせただけで人間超えてますって!」
サムは、自分が暴走し、準魔王と魔王がボロボロになりながら戦っていたというのに、ギュンターに愉快な技を伝授している友也に「意外と余裕があったんだなぁ」と感心する。
同時に、ギュンターも即席で教えられた技を取得しているのだから、彼も彼でやっぱりおかしい。
「さて、余興は終わったか?」
「まさかの余興扱い!」
「そこの気味の悪い人間の気色の悪い攻撃はどうでもいい。ところで、サム」
「……なんでしょか?」
ギュンターの攻撃のせいで笑顔を消した竜王は、その無表情のままサムに尋ねた。
「ビンビンとはなんだ?」
「なにそれ、どういうこと!?」
竜王の艶やかな整った唇から「ビンビン」という単語が放たれたことに、スカイ王国に帰国してから一番の動揺がサムを襲った。
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