18「竜王の理由です」②
「やっぱり俺かぁ!?」
名指しされたサムが叫んだ。
竜王一行の目的が、自分であるという気まずさを覚える。
「あの、竜王……様」
「かしこまる必要はない。私の名は、炎樹。破壊と再生、そして終焉を司る赤き竜だ。お前には、私の名を呼ぶ権利がある。好きに呼ぶといい」
「はぁ。権利、ですか?」
不思議と、竜王からは敵意などを感じない。
むしろ、親しみを覚える。
はて、この違和感はなんだろう、と首を傾げるサムに、竜王は初めて感情を表に出した。
「無論、お前は――私の伴侶となる男なのだからな」
誰もが見惚れるような笑顔で、この場の誰もが驚くようなことを口にした。
「は?」
無論、一番驚いたのはサムだ。
(え? 伴侶ってなにどういう意味だっけ? えっと、えっと……)
「伴侶だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
サムが混乱している間に、鼓膜が破れそうな怒声で空気を震わせたのは、ギュンターだ。
「ちょ、ダーリンを伴侶って、どういうことなの、ママぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
続いて、ギュンターに声の大きさこと劣るが、絶叫したのはエヴァンジェリンだ。
「久しいな、エヴァンジェリン。お前のことはいつも案じていた。青牙と青樹がいろいろ言ったが、私はお前が女神扱いされていることに困惑を覚え様子を見に来たのだ」
「えっと、ママ? 心配してくれるのは嬉しいんだけど、なんかダーリンに会いに来たついでに聞こえるんだけど! てかっ、そうじゃなくって、ダーリンが伴侶って」
「見たところ神気は感じない。ならば、魔王に至り力を得たお前を人間が崇め祀っているだけだろうな」
「だから、話を聞いてってば!」
さすがの竜王炎樹の推測も間違ってはいないのだが、まさかスカイ王国の変態たちに呪いという名の恩恵を与えて女神として崇められているとは思いもしないだろう。
「待ちたまえ! 待ちたまえ、待ちたまえ!」
母娘の会話を遮ったのは、天に咆哮した姿勢で静止していたギュンターだった。
彼はなにを思ったのか、腰を左右にくねんくねん振りながら竜王に向かって真っ直ぐ歩いていく。
「竜王だろうとなんだろうと、僕のサムを伴侶だと? 大方、翼を斬られたときに胸キュンしたのだろうが、順序があるだろう! まず、正妻である僕にご挨拶するところからやり直したまえ!」
「いや、お前は正妻じゃねーだろ。リーゼの立場奪うなよ」
エヴァンジェリンのツッコミを無視して、ギュンターが竜王に迫る。
彼の目は血走り、鼻息も荒い。そして、なぜか腰をこれでもかとくねんくねんさせているので不気味極まりない。
「よくもまあ、竜王相手に自分を貫けますね。もう感心しかできませんよ」
友也もギュンターにはびっくりのようだ。
しかしギュンターは止まらない。
竜王の眼前に立つと、びしっ、とポーズを決めた。
「お聞き! 君が素敵なサムの魅力に負けて惚れるのも理解できる! 妻になりたいのもわかる! だがね、序列があるのだよ! 永久欠番のウルの次にはこの僕ギュンター・イグナーツがいることを忘れないでもらおう! まず、ウォーカー伯爵家かシャイト伯爵家で掃除から始めてもらおうかな! そう、下積みだ! いいかい! 君が竜王だろうと僕は簡単に認めないよ! サムのお母様は優しい方だが、その代わりに僕が厳しくいこう! そうだね、僕のことは姑だと思いたまえ! わかったなら、まずはギュンターお義母様とお呼びっ! ――ふべっ」
「うるさい」
なにかに取り憑かれたように唾を飛ばして捲し立てていたギュンターは、竜王に頬を引っ叩かれて吹っ飛んだ。
地面を跳ねることなく、低空飛行すると、しばらくして地面に頭から突っ込み土煙を上げた。
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