4「試練です」①




 斬り裂いた世界が崩れ落ちると、再び白い空間に投げ出されてしまった。

 今回は、レプシーはいないようだ。

 だが、代わりに姿を表したのは、サムが敬愛する師匠ウルリーケ・シャイト・ウォーカーだった。


「見事」

「――ウル? まだ夢の続きか?」

「否」

「……誰だ、あんた?」


 見た目こそウルのようだが、感情のない顔、抑揚のない声、そして淡々とした話し方。そのすべてがウルとは違う。

 あれだけ感情を表に出していたウルが無表情になると、こうなるのか、と感想を抱くも、笑顔を絶やさない太陽のような人をなぜ模倣しているのかと苛立ちも湧く。


「我は、世界」

「は?」

「世界の意思」

「つまり?」

「我は、世界の意思。お前に、試練を与えた」

「はぁ。というか、なんでウルの姿なの?」

「干渉しやすい姿、借り受けた」

「というか、もっとわかりやすく喋る気ないの?」


 無表情、無感情、そして淡々と話をされるので、調子が狂う。

 とくに、ウルの容姿をしているせいもあるだろう。


「仕様」

「あ、はい、そうですか。それで、なんであんな夢を見せたの?」

「試練」

「あの夢が試練?」

「是」

「……確かに心地よかったよ。ウルは生きていて、奥さんになってくれているし。父親ってあんな顔をしているんだ?」

「是」

「そこは感謝するよ。ちゃんと見たことなかったから」

「感謝不要」

「あー、はい。そうっすか」


(なんだかやりづらいなぁ)


 最近、変態などの遠慮のない奴らと接してばかりいるので、世界の意思だかなんだかわからないが、反応が希薄で戸惑う。


「で、さ。俺は魔王に至ったのかな?」

「否」

「そっか。駄目だったかぁ」


 残念ではあるが、仕方がない。

 魔王の力を借りても無理なのなら、魔王の素質がなかったということだ。


「勘違い」

「うん?」

「試練継続中」

「そうなの?」

「是。試練、次の段階へ」

「どういうこと?」


 サムが疑問を浮かべた刹那、ウルの姿をした世界の意思から、規格外の魔力が解き放たれた。


「これは――」


 ダニエルズ兄妹、魔王レプシーであっても比べ物にならないほど、強く、濃密な魔力だ。

 魔力になれているサムでさえ、魔力酔いを起こしそうだった。


「サミュエル・シャイト」


 はじめて世界の意思がサムの名を呼んだ。


「次の試練は――私との戦いだ」


 彼女の声音が変わった気がした。


「私と戦い、勝利してみせろ。ただし、この世界での死は、魂の死である」

「なんだ、ちゃんと話せるじゃないか! だったら最初からそうしてくれよ!」

「いくぞ、サミュエル・シャイト。私を倒し、魔王に至ってみせろ」


 ウルの姿で世界の意思が、白い世界を蹴った。

 彼女はサムに鋭い速さで肉薄すると、


「これはお前の得意技だったな。自分でも一度食らってみると良い。――スベテヲキリサクモノ」


 右腕を振るい、魔力を込めた斬撃を放った。




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