第九章
1「魔王と再会です」
「ここは、どこだ?」
サムは真っ白な空間でひとり首を傾げていた。
「えっと、確か俺の胸をラッキースケベ魔王が貫いて、意識が遠くなって……あれ? 俺、まさか、死んだ?」
ぐるり、と周囲を見渡すと、どこまでも続く白い世界。
死後の世界だ、と確信した。
「うおぉおおおおおおおおおおおおお! あの変態魔王っ、君を魔王に至らせるとかいいながらなに殺してんだよぉおおおおおおおおおおお!」
「いや、君はまだ死んでいないさ」
「へ?」
突如、サム以外の声が聞こえ、弾かれたように声の主を探す。
声の主は目の前にいた。
「誰?」
サムの前にいたのは、線の細い優男だった。
容姿は嫉妬心を抱けないほど整っている。
ブロンドの髪を揺らして微笑む青年に見覚えこそないが、どこか既視感を覚えた。
「やあ、サミュエル・シャイト」
声にもどこか聞き覚えがある。
サムは、まさかと思いながらも、青年の名を口にした。
「――レプシー?」
戸惑い気味のサムに、正解だと言わんばかりに彼は頷いた。
「マジかぁ。前に会ったときと全然別人じゃん」
サムが戦った魔王レプシー・ダニエルズは漆黒の異形だった。
しかし、目の前の青年は、人に見える。
ただし、彼から感じる雰囲気や、その印象が、レプシーだとサムにはっきり告げていた。
「正確に言うと、その残滓のような存在さ。すでに私は死んでいる。だが、君に託した力の中に意識を残した。私の役目は、君の道標になることだ」
「託したっていうか、有無を言わさず渡された気がするんだけどな」
「敗者は勝者になにかを差し出すものさ。私には力以外差し出すものがなかったからね」
「その結果、死にかけているんですけどね!」
「確かに。君は今、魔王に至るか、死ぬかの瀬戸際にある」
「ったく誰のせいだよ」
わざとらしく嘆息するサムだが、レプシーは気にしていないように微笑んだままだ。
「なんというか、調子が狂うな。あんたには言ってやりたいことがあったし、話したいこともあったんだけど、こうして会うとなにを話していいのやら」
「私も君とは話したいことがたくさんある。だが、今はその時間ではないよ。そうだね、いずれ、君とまた会って話す時間があるだろう」
「どういう意味だ?」
サムは疑問を口にするが、レプシーは曖昧に笑うだけで答える気はないようだ。
どうやら彼は無駄話をするつもりはないらしい。
ただ、言っておかなければならないことがある。
「あのさ」
「なにかな?」
「お前の兄妹なんだけど、あれもっとなんとかならなかったのかよ?」
「………」
「おい、顔をそらすな。こっち向け!」
「なんというか、少々過保護に育ててしまったことは認めよう」
「いやいや、そういうレベルじゃないでしょ!」
「ギュンター・イグナーツと遠藤友也よりはマシだろう?」
「うん!」
即答してしまった。
ダニエルズ兄妹は度し難いブラコンであるが、呼吸をするように変態行為をしてくるギュンターや、存在がラッキースケベの魔王よりマシであることは間違いない。
「ふたりのことは気にかけていたんだが、君になら託せるよ」
「――押し付けるの間違いじゃね?」
「さて、私としても君には魔王に至ってほしい」
「おい、こら、話変えんな!」
「私の力を使いこなす前に、まず君には試練がある」
「だから、おい!」
レプシーはサムの訴えを笑顔でかわしながら近づいてくると、手を伸ばしてきた。
彼の手は、サムの目の上に置かれ、視界が暗くなる。
「無事に試練を終えることを祈っているよ――おやすみ」
サムがなにか言うよりも早く、再び視界が暗くなった。
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