閑話「義父は帰りを待っています」
「――ついに私もおじいちゃんか!」
スカイ王国王宮にあるクライド・アイル・スカイ国王陛下の執務室にて、娘ステラから妊娠の報告を聞いた父王は喜びに包まれていた。
彼の隣では、第一王妃であり母でもあるフランシスも目尻に涙を浮かべて喜びを見せていた。
「ふふふ、わたくしがおばあちゃんですか。歳をとったものですわね」
「何を言う。そなたは今でも美しい。昨夜もコーデリアとともに、あれほどかわいらしかったではないか」
「まあ、あなたったら! 娘が見ていますわ」
と、娘の前でいちゃつきはじめる両親に、ステラは引きつった顔をした。
「む、娘が見ているので、お願いですからほどほどにお願いします」
「すまぬすまぬ。どうもレプシーから解放されてから、身も心も軽くてのう。思えは、奴は私の半身だったのかもしれぬ」
きっとここにサムかレプシーがいたら、ツッコミを入れたのだろうが、残念ながら不在だった。
ステラもフランシスも父の苦労を知っていたので、少々軽くなったがクライドが重責から解放されたことはよろこばしい。
「しかし、こう、なんというか、部屋に引きこもり周囲を拒絶していたステラがサムと結ばれ、母になるとは感慨深いものがあるな」
「そうですわね。サムには感謝しています。ステラのことをこんなにも幸せにしてくださって」
「わたしもサムにはいつだって感謝していますわ。サムがいるからこそ、今のわたしがありますもの」
「あの日、ステラをサムに託そうと思い至った私は間違っていなかったようだ!」
「お父様がサム様に引き合わせてくださったこと、心から感謝致します」
幸せそうな娘を見て、クライドは口元が緩んでしまうのを堪えられなかった。
今まで苦労してきたステラが、サムと出会い、幸せになった。
不安がなかったと言ったら嘘になるが、直感的ななにかでサムを信じていたのだ。
その直感は当たっていた。
ステラが子を宿し、笑顔をいっぱいにする日が来るとは、当時は想像さえできなかったのだ。
サムには感謝しかない。
(――思えば、サムも不思議な少年だ)
男爵家で不遇な扱いを受けていたと思えば、ウルリーケと出会い魔法使いとして大きく成長した。
王国で最強の魔法使いの座と、宮廷魔法使いの地位を得て、その立場を不動のものとした。
驚いたことに、クライドの亡き弟の忘形見だという事実も判明し、王家と縁があることもわかった。
そして、長年スカイ王国に封印されていた魔王レプシーを見事倒してみせた。
(サムのおかげで、国はいい方向に進んだ。悪さをする貴族たちももう少しで一掃できる。さすればこの国はもっとよいものとなるだろう! だが、まさか、魔王を倒したサムが魔王にならねばならぬとは……もしかすると、私はサムに余計な重荷を背負わせてしまったのかもしれぬな)
娘が懐妊したという朗報と同時に、サムが魔王になるために他の魔王に連れて行かれたという情報はクライドにとって衝撃的だった。
しかも、サムが魔王になるか、死ぬかの瀬戸際であることも、大きなショックを受けることとなる。
(――女神エヴァンジェリンよ。サムを守りたまえ。彼にはステラと、いや、妻たちと子供を抱いて笑う幸せな未来こそふさわしい! どうかあなたの加護を!)
リーゼたちも、クライドにとっては幼い頃から知る娘同然の子たちだ。
彼女たちが、サムを失い涙する光景など見たくない。
(サムよ。私のかわいい弟の残した子よ。私はそなたと酒を飲む日が楽しみなのだ。義父として、叔父として、そなたを信じている。無事に帰ってくるのだぞ。その暁には、約束通り王家に伝わるビンビンを伝授しよう! いや、それ以上に秘術をそなたに託そうではないか! 待っているぞ、サム!)
義理の息子の無事をクライドは心から願い、女神に祈るのだった。
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