67「お試しの時間です」①




 横一線に両断されたダニエルズ兄妹に不適な笑みを浮かべると、サムは続いて右足を奮った。


「――スベテヲキリサクモノ」


 縦一閃に放たれる斬撃がティナを肩の付け根から腕を斬り飛ばした。


「ちっ、真っ二つにしてやるつもりだったのに!」


 不覚にも安定しない砂場のせいで、横にずれてしまった。

 予定では、ティナの頭から両断するつもりだった。


「もういっちょ、食らっとけ!」

「させるものか!」


 レームの撒き散らした血液が、まるで生き物のようにサムに襲いかかる。

 だが、サムは慌てることなく右腕を振るった。


「――スベテヲキリサクモノ」


 レームの血液が両断され、飛び散り、砂浜に吸い取られていく。

 しかし、サムに斬り裂かれた兄妹が再生するには十分な時間だった。


「――っ、なるほどな! 本来右腕以外でも使えるというのに、右腕だけで戦ってきたのは、このような場合に備えてか! 素晴らしい、お兄ちゃんポイントをたくさんやろう!」

「サービスだぞ!」

「いらねえよ! つーか、あんたら斬られても元気だな!」


 サムは思わず大声を上げたが、内心では感嘆していた。

 いくら吸血鬼であり、再生能力や人間を超える耐久性を持っているとしても痛覚はある。

 身体を両断されながら、平然としているのだから、痛みに相当の耐性があるのだろう。

 普通なら、腕一本切り落とされただけでも激痛なのだが、実に恐れ入る。


「実際にこの身で味わってみたものの、凄まじい殺傷能力だ。だが、まさか右腕意外にも自在に『スベテヲキリサクモノ』を使うことができるとは、一本取られたな」

「どれだけお兄ちゃんポイント稼ぐつもりよ!」

「そんなつもりないでーす!」


 お兄ちゃんポイントはさておき、サムはかつてウルと修行時代を思い出す。


「サム。お前はその『スベテヲキリサクモノ』を右腕以外で使うな」

「なんで?」


 サムの当たり前の問いかけに、ウルは不適に笑った。


「――その方が、かっこいいだろう?」

「さすがウル! 確かにかっこいい! だけど、それを実際に弟子に強いるなんて、普通はしないよね!」

「ふふん! だろう!」


 胸を張ってドヤ顔をするウルの命令をずっと聞いてきたのだが、


(――今思えば、なんというか、ウルらしいというか、従う俺も馬鹿というか)


 笑いがこみ上げてくる。

 レプシーと戦った時こそ、『スベテヲキリサクモノ』すら凌駕する一撃である『セカイヲキリサクモノ』を使ったが、あれは右腕でしか使えない。

 しかし、『スベテヲキリサクモノ』であれば、両腕両足のどこからでも撃つことが可能だった。

 それを今までしなかったのは、単純にかっこいいからというだけではなく、ダニエルズ兄妹のように、サムはスキルが右腕でしか使えないと思い込ませるためだ。


 だが、ここで使ってしまい、ダニエルズ兄妹だけではなく魔王遠藤友也にも見られてしまった。

 今後の戦い方をまた考えなければならない。

 しかし、それも、ここから生きて帰ってきたらの話だ。


(さて、せっかく奥の手のひとつを見せたのに、決定打にならなかったのはさすがレプシーの兄妹だ。これからどう戦おうっかなぁ)


 この状況下で、サムはたまらなく嬉しそうに笑みを深めるのだった。




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